ジョクジャカルタ哲学軸を歩く 歩行者優先の街づくりへ 世界遺産
国連教育科学文化機関(ユネスコ)が9月中旬、ジョクジャカルタ特別州の「宇宙論的枢軸とその歴史的建造物群」を世界遺産に認定した。18世紀に初代スルタンが考案したこの都市計画。記念碑「トゥグ・パル・プティ」―スルタンの住居「クラトン(王宮)」―舞台「パングン・クラップヤック」の3点が結ぶ直線を実際に歩いてみた。
「開発推進派が勢いをつける中、歴史あるジャワ哲学に基づいて設計されたこの都市計画を守らなければならない」——。こう話すのは世界遺産登録に尽力した同州政府文化局のヌラニ・ファズリ企画室長(41)。遺産申請の第一目的は「保存だ」と力説した。
新たに認定された世界遺産は、1755年にジョクジャカルタ王朝の初代スルタン、ハメンク・ブウォノ1世が高度な哲学に基づいて考案した都市建設計画。通称「Sumbu Filosofi Yogyakarta(ジョクジャカルタ哲学軸)」と呼ばれる。
「宇宙軸? ジャワ哲学? 創造主?」。州政府が公式に発表する文献を読み漁っても抽象的なワードに頭の中は、はてなマーク。後々、ジョクジャ在住歴の長い邦人の方が「あれはジャワ人しか理解できないわよ」と笑い飛ばす姿を見て少し心が救われた気がした。
百聞は一見に如かず。現場を訪れてみると見えてくるものがある。中部ジャワ州との州境に位置するムラピ山からインド洋へ抜ける直線上に、トゥグ・パル・プティ―クラトン―パングン・クラップヤックの3点が連なる。実際はまっすぐではないらしいが、18世紀当初の技術では「直線上にある」という認識だったのだろう。これを思うと世界遺産認定も頷ける。
まずはマリオボロ通りから徒歩で記念碑へ。その後はクラトンへ向かおうと公共バスを利用。装飾化する時刻表を横目にバス停のおじちゃんと世間話をしながらバスがやって来るのを気長に待った。しかし、運悪く改装中で王宮内の見学はお預けとなり、クラトンの裏庭を散策した後、白い四角の建造物「パングン・クラップヤック」へ。値段交渉の手腕が問われるベチャ(三輪人力車)を利用して向かった。
3つの建造物からバス停は遠く、本数も少ない。ベチャを利用すると金額が跳ね上がる。ジョギングやウオーキングには適度な距離だが、歩道や信号が整備されていない部分も多い。
世界遺産に登録されたものの愛される観光スポットになるかと問われれば一抹の不安を覚える。この不安をヌラニさんにぶつけると、「現在、観光客の目線に立った歩行者優先の街づくり計画を練っている」と話した。仮にこの構想が実現すれば、車移動という手段しかない国内旅行の先駆者、あるいは新たな街づくりのモデル都市になるだろうと感じた。
このジョクジャカルタ哲学軸は「ジョクジャ観光の救世主になるだろうか」と想像しながら、夕日を見るべく「プランバナン寺院」へ駆け足で向かった。
(ジョクジャカルタ=青山桃花、写真も)