インドネシアの〝顔〟が完成 在日インドネシア大使館 多様性のショーケース
在外公館は外交活動の最前線であり、文化交流などの架け橋となって国の〝顔〟ともなる。しかし、現実はテロなど安全対策の必要もあり、各国大使館の佇まいは無機質で、ともすれば排他的な空気すら漂う。その殻を破ったのがリニューアルした在日インドネシア大使館。そんな評判を聞き、東京・東五反田の大使館を見学させてもらった。
最寄り駅はJR目黒駅。西側には東京インドネシア共和国学校があり、東側は大使館。街を歩けばインドネシア語が聞こえ、目黒の界隈は「リトル・インドネシア」と呼びたくなる。
ただ、旧大使館は老朽化が進み、使い勝手もイマイチと不評。特に正面ロビーが狭く、在日インドネシア人にとって大使館より、むしろ広い中庭がある裏手の「イスタナ(大使公邸)」の方が馴染みがあるという。レバラン(断食月明け大祭)も独立記念日も、ここに集い、ともに祝福の時を迎えるからだ。
そこで期待が高まる大使館のリニューアル。建築コンサルとして黒川紀章氏の設計事務所から協力を得て、建設は大成建設が請け負った。工事は2021年に始まり、約2年半をかけて昨年12月、リニューアルオープンした。
「ここはインドネシアの多様性を示すショーケース」。ヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使が表現する通り、新生大使館は調度品だけでなく、漂う空気にも「インドネシア」を感じさせる。
入り口から見てみよう。まずはゲート。なんとバティックのチャップ(型押し)をそっくりデザインに取り込んでしまった。これは感涙レベルのナイスアイデア。しかも敷地内が透けて見えるから、閉塞感がない。
広々とした1階ロビーも使い勝手がよさそう。セミナー会場や舞踊のステージとなるスペースに加え、応接エリアもゆったりとしている。調度品に目をやれば、バリ島のガルーダ像が正面入り口で来館者を出迎え、サンスクリーンは中部ジャワ州の伝統バティック、パラン模様だ。カリマンタンのダヤック人の彫刻もあり、スマトラ島からは「生命の木・カルパタル」がロビー正面を飾る。
裏庭に小さな庭園がある。その石垣はインドネシアから運んだ岩石だそう。古都・ジョクジャカルタに近いプランバナン寺院を模したモニュメントをよく見ると、そこにヘリ大使がいた。いや、大使がスカルノ初代大統領と〝歓談〟するデザインのオブジェで、時代的にあり得ないシーンだが、なんともお茶目なユーモアとアートなセンスに心が和む。
12月15日の開設セレモニーには、ルトノ・マルスディ外相も参列。「日本との関係強化のため、ここから外交ミッションを」と新生大使館が果たす今後の役割に期待感を示した。(長谷川周人、写真も)