ジャワ島西端の玄関口へ メラックを目指す バンテン州
地図は旅心を誘う。鉄道やバスの路線図をぼんやりと眺めていたある日、ふとこの大都会から飛び出したい。そんな衝動に駆られ、小さな決心をした。「ジャワ島西端のメラック(バンテン州)へ行こう」。ここは言わばジャワ島の玄関口。鉄道、フェリー、港、海……。地図を見ながら、そんな魅惑のキーワードが頭の中であふれかえった。
午前8時半過ぎ、中央ジャカルタのタナアバン駅から首都圏専用電車(KRL、コミューター)の終点、ランカスビトゥン駅へ向かった。約2時間の列車旅だった。
ここからメラック駅まではインドネシア国鉄(KAI)のローカル線に乗り継ぐことになる。ところがだ、思わぬ誤算が起きた。KAIの切符売り場に行くと、なんと当日券はもう売り切れ。ランカスビトゥン~メラック線は1日7往復しかないと、この時に初めて知った。
鉄道でメラックへ行く計画が一瞬にして崩壊。仕方なく、駅員に他の交通手段を尋ねると、駅前に停車している赤い軽ワゴンを指して、アンコット(乗り合いバス)で行けると教えてくれた。
アンコットに同乗していた女性に、行き先を尋ねるとランプン州に帰省するため、メラックに行くという。女性はチカラン在住で、アプリで切符の事前購入を試みたが、犠牲祭前後の連休もあり、既に売り切れだったという。メラックまで鉄道で3000ルピアのところが、アンコットは6万ルピアだった。
アンコットでメラックのフェリーターミナルまで2時間半ほど。港の風景を眺めようと散策してみると、ホテルも併設されて充実している。そしてスマトラ島に向かうフェリーに乗用車、バイクなどが次々と飲み込まれていった。
ここまで来たら、ビーチに行ってみよう。出発を前にビーチがあるホテルを「人生の先輩」から聞いていた。ジャカルタ日本人学校の校外学習で50年前に行ったというメラックビーチホテルに向かった。質素な佇まいの入り口を抜けると目の前がビーチだった。子どもたちが遊んでいる姿を見て心が和んだ。ビーチから小さな島が目に入った。ホテル従業員に島に行けるか尋ねたら、近くのホテルプランギから船が出ているというので行くことにした。
小島はメラック・クチール島という。乗船料は往復1万5000ルピア。営業時間は午前6時半から午後5時半までとのことだった。島までボートで10分もかからなかった。下船すると入島料2000ルピアを払う。島に入り、歩いて5分ほどで反対側に行けるほど小さい島だった。
20万ルピアでテントの貸し出しもあるなど、キャンプもできて楽しめそうだった。シュノーケリングの貸し出しもあった。島で外国人は見なかった。ジャカルタやボゴールから来ている地元の観光客がいた。
ほんのつかの間だが、心身共にリフレッシュ。島を出て駅に向かおう。ホテルプランギからアンコットに乗った。
不安はジャカルタに向かう鉄道の切符はとれるのか。不安は的中した。駅員は、切符はあるが座席がないから、立って行くしかないという。しかも出発は1時間半後の午後7時。ジャカルタ方面の最終列車だった。
駅からすぐにフェリーターミナルへの通路がある。昼に到着した時とは違うターミナルだ。船の汽笛が聞こえる。いつかはここからスマトラ島に向かってみようと思う。(坂田恵愛、写真も)