日イで立ち向かう大災害 半世紀超え、深化する知見 命守る砂防ダム
「もちろん1番は日本だ。しかし、その次はインドネシアだと自負する。隣国である東南アジアの友人たちへ。そしてほかの国へも。立ち止まることなく、次の世代に知見を伝達させていく」。砂防技術センターのエカ・ヌグラハ・アブディ所長(53)はこう力を込めた。命を守るため、日イの知見を掛け合わせ、前例にない大規模な自然災害に立ち向かう。
日本政府は1970年代から、上流から流入する土砂をせき止める砂防技術の専門家をインドネシアに派遣。80年代に建設されたジョクジャカルタ特別州スレマン県にある公共事業・国民住宅省の砂防技術センターは、各地で多発する土砂災害を食い止めるため、日本の支援で泥流発生装置や人工降雨装置、水理模型水路といった砂防実験施設などを整備した。
そして、バリ島で5月に開かれた国際会議「世界水フォーラム」で新たな協力が結ばれた。国際協力機構(JICA)と同省は、砂防技術センターの協力に関する覚書を締結。同センターから国内外に砂防技術を広めるため、知見の浸透に向けたロードマップ策定や機材の更新などに取り組む。
日本にある砂防ダムは全国で約9万基と世界最多。これに対し、中部ジャワとジョクジャカルタの州境に位置するムラピ山では277基を完工。この内の半数を日本政府(77~2021年)が支援する。
ムラピ山のふもとには市街や、世界遺産のプランバナン寺院、ボロブドゥール寺院といった重要文化財があがる。2010年10月にムラピ山が噴火。その規模は過去100年間で最大となり、噴出物は計画量の30倍。死者386人を生んだが、砂防ダムが土砂を貯め込み、流出によるダメージを軽減して甚大な被害は免れたという。
しかし、警戒すべきは噴火時のみだけではない。噴火によって堆積した火砕物が雨によって押し流されると土石流が発生。インドネシアでは、集中した場所に雨が降る雨期に、100年に1度レベルの土石流が多発する。
雨期になると、この土石流によって橋や家屋が流されてしまうニュースをよく耳にする。河川での砂防ダム建設が十分であれば減災できるが、やはり費用面がネックになるという。
「自然の脅威を前に、少なくとも人の命は絶対に守りたい」
砂防ダムの建設現場を支える八千代エンジニヤリングジャカルタ事務所の福島淳一所長(57)は赴任から14年が経った。
「日本では見たことがない自然現象に出会い、途方に暮れる日もある。いかにして日本の技術をベースにリファインドするかが鍵になる」とインドネシアの有識者と日々、知恵を絞りあう。
また、インドネシアでは、富士山の5合目クラスまで人が生活しているという。福島所長は「危険な地域だと理解してもらい、有事のときにどう避難するのか。住民たちに危機意識を持ってもらう」とソフト対策も重要だと語る。
砂防ダム建設時は、自然のサイクルを破壊しないように資材の運搬は河川を使用。山を切り開く場合も、のちに住民の避難経路になるような道づくりを意識する。
日本政府による砂防技術の協力が半世紀を超えても尚、日イ協力は深化し続けている。(ジョクジャカルタ=青山桃花、写真も)