模索する伝統と繁栄の両立 コロナ禍で暮らしに変化も バンテン州のバドゥイ人

 秘境とも言うべき山間の部落に暮らし、伝統を重んじるバドゥイの人たち。現代文明を拒み、学校教育をも禁じる彼らだが、その暮らしぶりもコロナ禍に変質を迫られている。アイデンティティーを守りながら、どう部族を繁栄させるのか。バンテン州レバック県の部落にペンとカメラを持ち込み、彼らの生活を垣間見た。 

 ジャカルタから車で3時間半。バンテン州の州都、セランから南下し、チウジュン川の上流に部落は点在する。戒律がゆるい下流域の「外バドゥイ」では外国人旅行者も受け入れるが、上流の「内バドゥイ」は特別許可がない限り、入域すらできない。電力も水道もなく、電子部品はおろか家屋に杭は使わず、置き石の上に建てた高床式の家に住む。電波が届かないからスマホはずっと「圏外」。あきらめてバッグに放り込んだ。
 男は山で農作業。女は家事や機織りで生計を支える。まるで「桃太郎」の世界のようだが、一夜を過ごしてみると、そのシンプルな生活は人の営みとして実に自然な姿のようにも思えるから不思議だ。
 煮炊きにはガスは使わず、かまどに薪をくべて行うから、手間暇はかかる。けれども、立ち上る薪の香りは食欲を誘い、山道で歩き疲れた体は内側からとろけそう。冷たい湧き水で体を洗い、山間を吹き抜ける涼風に身を任せれば、この世の楽園のようにも思えてくる。
 ちなみに、家屋に使う建材はすべて竹と木の幹だから、ひとたび火災になれば全焼は免れられないそう。けれども、「隣人たちと力を合わせて、1週間もあれば新しい家ができるから、火災が起きても放置するだけ」(デシさん)。
 ただ、山岳地帯だけに食糧の確保には一苦労あるそうだ。「みな結婚をするとレウィット(米倉)を建てる」。1世帯あたり1㌧が平均容量。山間部だから水稲ではなく、雨水が頼りという自然農法の陸稲となり、「収穫量が少ないから大切に管理する必要がある」という。
 「持続可能な開発目標(SDGs」のお手本を実践するバドゥイ人だが、新型コロナ禍で異変も起きているという。「観光客が減って現金収入となる織物などの土産物が売れず、特に外バドゥイの暮らしが苦しくなった」からだ。
 そこで急速に普及を始めたのがスマホで、特産品のオンライン販売が始まった。外バドゥイの村を仕切るムリヨノさんは、「バドゥイ人も教育を受け、知識を身につけるべき」と訴える。「伝統を捨てる必要はない。しかし、識字率も低いバドゥイの現状を放置すれば、誇るべき我が文化の衰退につながる。子どもたちは学校に行き、知識を蓄えて伝統と繁栄を両立させるべき。それを政府は支援してほしい」。こうジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領に直訴しているという。(長谷川周人、写真も)

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