発想転換で異文化体験 漆黒の闇で天の川を仰ぐ バリ・ニュピ

 「静寂の日」とはバリ島のヒンドゥー教徒がサカ暦の新年を迎える「ニュピ」のこと。島民たちが瞑想にふける1年で最も大切な1日となる。外出や灯火を使うことが禁じられ、空港も港も閉まるから実質的な〝全島封鎖〟。まるでコロナ禍で経験した「ホテル隔離」のようだが、発想を転換すれば異文化経験のチャンス。世界屈指の観光地、バリから明かりが消える新月の夜を体験した。

 悪魔払いの儀式が原点といわれるニュピ(今年は22日)の前日、つまり21日の夜、人々はガムランを鳴らし、恐ろしい形相の張りぼて、オゴオゴを担いで街に繰り出す。オゴオゴは人の心にすむ「悪」や悪魔がモチーフで、これを祭り、焼き払って浄化する。
 大きなオゴオゴは5㍍を超えるが、年々大型化しているそうだ。「経済発展でオゴオゴは観光行事の目玉にもなり、特にコンペティションになってから、派手さを競って流行りのマンガキャラも登場するようになった」と飲み物売りの男性が教えてくれた。
 観光客にとって注意すべきは、移動だろう。オゴオゴが通れば、周辺道路は身動きができない。せめてバイク移動。車での移動は考えられない。飲食店やコンビニのシャッターが降りるのは深夜11時ごろ。それまで島内各地ではお祭りムードが続く。
 オゴオゴによる一連の儀式が終わると、いよいよニュピ。今年は22日午前6時から翌朝6時まで、外国人も含めて外出は禁止となる。罰せられる訳ではないが、自警団がホテルに〝強制連行〟するという。
 火や電気を使わない。殺生もしない。これら決め事は外国人にも適用されるが、ホテルの敷地内なら自室の照明の光が外に漏れないよう注意する程度で緩い。ただ、悩ましいのはインターネット環境が一転した。キャリアによって対応が異なるらしいが、インターネットの通信回線を遮断するため、基本的にスマホは使えない。ホテルのWIFIはつながるが利用者が集中するため、特に自室内での利用は途切れ途切れとなった。
 このあたりは宿泊施設によって状況は異なると思うが、苛立っても始まらず、ここで腹をくくった。「仕事はやめよう」。敷地内にある3つのプールを楽しみながら、まず欧州から来た宿泊客たちと交流を重ねた。まるで植物園のような敷地内を歩けば、リスの散歩にも出くわし、どんどん時間は過ぎていく。
 さて、午後7時。ホテルのレストランも営業が終わり、いよいよ暗闇の世界がやってきた。そこで思いついたのは星景写真。ニュピは新月で月明かりがなく、人工光の使用は認められないから光害がなく、絶好のチャンスではないか。
 そこから始まり翌朝の午前4時過ぎまで、漆黒の闇の中で星の写真を撮り続けた。疲れて夜空を仰げば煌めく星に心が洗われるよう。つかの間の休日を満喫した。そしてコロナ禍でチャンスがなかったが、改めてもっと国内各地の地域取材を増やしたいと思った。(バリ=長谷川周人、写真も)

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