広がる不安、不平等に苛立ち 発災から1カ月 チアンジュール地震
チアンジュール地震から約1カ月。政府の情報収集が後手に回って被災地対応は遅れ、住民は疲労を蓄積している。物資不足は深刻な状況が続いており、被災者は経済基盤を失ったまま生活再建の道筋は見えていない。背後に透けて見えるのは不平等な行政対応。「弱者切り捨て」といった言葉が脳裏をよぎる。
西ジャワ州チアンジュール県で11月21日に起きた地震で、土砂崩れによって最多の犠牲者を出したチュグナン地区。現地視察した地元のヘルマン・スヘルマン県長は16日、震災による死者数を334人から602人に修正。同地区の死者は397人とした。
2011年の東日本大震災でも、多くの公務員が被災して行政機能の停滞を招いた。災害時の情報混乱を排除するのは難しいが、県長は情報が誤った理由を「(イスラム教の教義に従い)遺族が埋葬したため」と説明。この言葉に取り囲んだ地元記者が反応した。
「責任を住民になすりつけるのか」。詰め寄る記者に県長は苦しい表情を見せ、「確認を急ぐ」と言い残し現場を去った。
「衛生環境は悪化の一途。高齢者の関連死も心配だ」。震源地に近いガソル村で、支援物資の仕分け作業をしていたリズキーさん(21)によると、政府が支給するスンバコ(生活必需品)は週3回。「ありがたいが中身は米、即席麺、油だけ」。不定期に届く民間支援で生活をつないでいるという。
「ただ、もっと頭が痛いのは日用品と医薬品の不足。洗濯も皿洗いも田んぼの用水路で水洗い。持病を抱える高齢者の体調悪化も深刻化している」
仮設テントで食事の用意をしていたハリダヤさん(32)も物資不足を訴えた。「スンダ人はスンダ料理を食べたい。けれど、調味料はなく、肉も魚も支給はゼロ。民間支援のタマゴとソーセージも間もなく底を突く。あるものを食べるしかない」。
もっとも、物資不足は避難所によって状況は異なるようだ。「実は避難所に有力者がいれば、なんでも手に入る。支給された日用品の転売行為も一部である」。避難所に1日3回、飲料水を届けている公共事業・国民住宅省の職員は、被災地に広まる悲しい現実を明かした。
しかし、ハリダヤさんもそうだが、最大の不安は経済基盤を失ったまま、どう生活を再建するかだ。「政府は移転を認めない。不公平だが、自力で再起するしかない」。イスラム教の互助組織幹部のサドゥルワシさん(54)によると、家屋の大半が崩壊したガソル村は、なぜか政府が建設する被災者用住宅への移転を認められなかった。「代わって補助金を支給するというが、1ルピアももらっていない」と肩をすくめる。
不安と不公平な政府対応に住民のため息がもれる被災地で、ひとり自宅の解体作業をしていたパイサン君(12)に出会った。
「母親は食料調達に忙しく、父親はバンドンで働いている。でも父親はきっと家を建て直す。その日までに僕ががれきを片付けるんだ」。パイサン君は時折言葉を詰まらせながら、黙々と解体作業を続けていた。(チアンジュール=長谷川周人、写真も)