自然と調和、〝命の洗濯〟 バンドン アートな世界も堪能
涼風が吹く高原都市、バンドン。「ジャワのパリ」とも称賛されるこの街には特別な思い入れがある。ジャカルタ赴任後も何度か行く機会に恵まれたが、先月、半世紀近く前の思い出とともに再訪。自然と調和する空間に身を置く心地よさを楽しみ、スンダの伝統と現代アートの融合を目指す地元の取り組みを見てきた。
1970年代にジャカルタ暮らしを経験した筆者は、チランダック通りにあった当時のジャカルタ日本人学校に通っていた。そして74年1月、当時の田中角栄首相がジャカルタ入り。いわゆるマラリ事件が勃発して多くの市民が暴徒化。邦人社会を震撼させた。
そして同年11月、小学部は修学旅行の季節に。治安問題が心配されたが、学校は予定通り実行のゴーサインを出した。「インドネシアならではの体験をさせたい」。そんな理由だったと思う。
当時は高速道路はなく、早朝にジャカルタを出発してプンチャック峠で昼食。バンドン到着は夕暮れ時となり、教師も児童も疲労困憊していた。ところが、ハプニングが起きる。予約していたホテルで、国軍の将官たちの一行と鉢合わせ。我々の予約はすべてキャンセルされていた。
絶対的な権力を握る国軍が相手では、話は覆りようがない。私たちは別のホテルに泊まることになるが、翌朝、再びハプニングが起きた。訪れた地質博物館で彼らと遭遇したのだ。悶着は起こしたくなく、やり過ごそうとしたが、国軍側のトップが声をかけてきた。
「昨日は修学旅行を台無しにしてしまい、心から謝りたい。もしできれば、一緒に写真を撮ってもらえないか。大統領(故スハルト氏)に報告したい」
この一言で雰囲気は一転。みんなで和気あいあいと記念写真を撮り、またその良き思い出は同窓会などで今も語り継がれている。
そんな少年時代の記憶を胸に向かったのは、バンドン北郊にある2021年完成のガイアホテル。スンダ文化にこだわり、建築部材も調度品もバンドン一帯で調達するなど、エコをキーワードとする渓谷に立つホテルだった。
自室にはバルコニーがあり、眼下に広がるのはバンドン市街区の夜景。渓谷に広がる深緑は目にも優しく、都会の喧噪から離れてまさに〝命の洗濯〟をする滞在となる。
子ども向けサービスの充実も近代ホテルらしい心配りだが、予想外だったのは「NIKKEI FOOD」の美味さだ。ホテル内の食堂は南米移民した日系人の料理が看板メニューだった。中でもペルーのソウルフード、セビーチェは特筆もの。魚介類と野菜のマリネ、セビーチェは一般にエビや白身魚が多いが、NIKKEI FOODでは主役はマグロとなる。
いやはや、なんとも嬉しいハプニングが多い我がバンドンの旅である。
取材協力 ガイアホテル(長谷川周人、写真も)