ハンバーガーに学ぶ 多様性が育む文化に誇り
アメリカ料理と言われて頭に浮かぶのはハンバーガー。1991年に中央ジャカルタのサリナデパートにお目見えした「マクドナルド1号店」は、その代名詞的な存在となった。ただ、トランプ前米大統領はハンバーガーを「偉大なるアメリカの食べ物」と呼んだが、世界最大の経済大国である米国とハンバーガーが結びつかない。そもそもアメリカ料理ってなに? アメリカンBBQの人気店「ミートスミス」が南ジャカルタに出店したと聞き、足を運んでみた。
ミートスミスは2013年、シンガポールで産声を上げた。看板はアメリカンBBQ。メインデッシュはカジュアルな雰囲気の中で味わう燻製肉だ。数カ月前まで予約で満席というミシュランガイドで一つ星を獲得したグリルレストラン「バーント・エンズ」の系列店となる。
エド・ウィジャジャ・インドネシア支社長によると、グナワルマン通りにできたジャカルタ店は、カタール・ドーハに続く海外2号店になるそうだ。
「上質のオージービーフでアメリカBBQの伝統の味を楽しんでほしい」。古き良きアメリカを演出する店内で、エドさんは胸を張った。
私たちイスラム教徒には馴染みがないが、店内のバーカウンターもアメリカ文化のひとつだろう。バーテンダーがショットグラスにウイスキーを注ぎ、そこに異国情緒を感じる。
そしてもちろん、焼き上がったビーフはジューシー。写真家のリンダさん(32)も、「ジャカルタでもこんなステーキが食べられる時代がやってきた」と興奮気味だ。
ところで、トランプ氏が「偉大なるアメリカの食べ物」と豪語するハンバーガーはない? いや、大丈夫。階下の「ミートスミス・エクスプレス」にあった。試してみると、二段重ねのパテはもはや肉のかたまりの領域。そのボリューム感に圧倒されながらも、赤身のグリルビーフの美味さに思わず笑みがこぼれる。
「肉だけじゃない。バンズもジャカルタにはなかった味わい深さ」。居合わせたザイナルさん(27)もご機嫌だった。
もっとも、ハンバーガーは5万ルピアだが、料理は一品15万~65万ルピアと安くない。ただ、ここで理解すべきは、移民国家であるアメリカが多様な文化を受け入れ、自国文化として育て、そこに付加価値が生まれるという事だ。だから、街のハンバーガーショップもあれば、ホワイトハウスの腕利きシェフが心を込めて作るハンバーガーもある。ここに同じ多民族国家のインドネシアは学ぶべきものがある。
インドネシアにも、例えば日本のたこ焼きが屋台メニューに並ぶ。ハンバーガーもファストフードもあれば、若き起業家が提供する数万ルピアの手作りハンバーガーもある。どれもオリジナルから派生した独自文化だが、この国の味覚に合わせた味であり、決して偽物とはいえないはずだ。
しかし、アメリカと違ってインドネシアの場合、各民族が育んできた伝統の味もある。言い換えれば、多くの美味しい選択肢があるわけで、多様性が育む食文化も悪くない。インドネシア人のひとりとして、ちょっぴり誇らしく思えてきた。(センディ・ラマ、写真も)