車は未来を描く〝夢工場〟 ガイキンド国際オートショー
ガソリン自動車が発明されてから今年で約150年になるそうだ。そして今、時代は化石燃料車から代替燃料車へ。自動車の歴史が大きな転換点を迎えようとする中、インドネシアでは東南アジア最大のモーターショーが開催された。コロナ禍を乗り越えてのようやくの実現だった。車好きの26歳の目から今年最大の車の祭典を振り返る。
バンテン州南タンゲランにある国際展示場「インドネシア・コンベンション・エキシビジョン(ICE)」で開かれたガイキンド・インドネシア国際オートショー(GIIAS)。入場者数は約29万人と発表された。最後のGIIASは2019年、つまり新型コロナウイルスが感染拡大をする前だが、この時は47万人を超えている。
その差は18万人と大きいが、外出は控えるご時世でもあり、立派な数字だと思う。周囲と話してみても、誰もウィズコロナ生活に飽き飽きしており、モーターショーの再開は渇いた心に射した光芒。将来に夢を与える車やバイクは、インドネシア人にとってエキサイティングな世界なのだ。
入場後に向かったのは、日本車のブース。日本のアニメーションなどを見てきた私たちにとり、日本車は圧倒的な存在があり、あこがれでもあるのだ。実際に各社とも、車内のレイアウトを工夫したり、便利で安全な装備を充実させ、どの車も魅力的に見えた。
目を引いたのは、日産ブースの「スカイライン GT―R」とレクサスブースの「LF―30」。圧倒的なその性能とフォルムに思わずため息がもれた。
ところが、正直に言ってしまうと夢を感じなかった。高い完成度とファミリー層狙いの作り込みは見事だが、あまりに現実的でディーラーのショールームのよう。ボディーカラーもホンダやダイハツは若者世代を意識していることが伝わるが、総じておとなしく、購買意欲を刺激するようなインパクトがないように思った。
そしてもうひとつ、致命的な「残念」があった。EVという「次」に向けた強いメッセージが伝わらなかった事だ。これに対して中国、韓国のブースは違う。実用レベルに達したEV性能を強調。近未来を彷彿させる運転席のインパネにはわくわく感があった。
「願いは安定した仕事。そのためなら指紋ひとつ残さず、ぴかぴかに磨き上げる」
各国の車を見て浮き足立つ私に冷や水をかけたのは、西ジャカルタ・チュンカレンに住むタクシー運転手のロジュールさん(21)。GIIASで働けば宿泊費と1日2回の食事が付いて日当15万ルピア。展示車の汚れを落とすスタッフとして汗を流していた。
考えてみれば、自動車産業の発展は地域社会の地図を大きく塗り替える。完成車の善し悪しもあるが、雇用創出という大事な役割もこの国で果たしている。そのパートナーとして車を選ぶとすれば、わかり合える友人であってほしい。
「いつかはクラウン」。こんなトヨタのテレビCMがかつてあったと職場仲間が教えてくれた。日本車はこれからも、私たちの豊かな未来を思い描く〝夢工場〟であってくれるだろうか。今から来年8月のGIIASが楽しみだ。(センディ・ラマ)