潮風が抜けるレストラン 北ジャカルタ バタビア・マリーナ
潮風に吹かれ、静かにランチを楽しむ。こんなささやかな願いも、今や遠い過去のよう。コロナ禍で私たちの暮らしは大きく様変わりしてしまった。それでも思わぬところで、思わぬチャンスに出くわすこともある。北ジャカルタのスンダクラパから数百メートル。バタビア・マリーナは高級店ではないが、潮風が気持ちいい、静かな港町のレストランだった。
オランダ領時代にバタビアの玄関口となったスンダクラパ。今も国内専用港として現役で、帆船が並ぶフォトジェニックな空間としても知られる。
その日は朝7時から撮影に入り、やわらかな早朝の日差しを楽しんだ。けれど、10時を回ると日差しが強すぎて撮影には向かず、腹ごしらえの算段をした。スンダクラパで飲食は難しいと思い込み、朝から飲まず食わずだったのだ。
港を離れて街中にオートバイで戻ろうとしたが、高波をかぶったのか道路が冠水していた。う回路を行くと遠くにコロニアル様式の洋館が見えた。それがバタビア・マリーナ。ヨットハーバーを併設したレストランだった。灯台もと暗しというのか、スンダクラパにこんな施設があるとは知らなかった。
ワクチン接種の証明を確認されて内部に入ると、そこに広がるのは西洋と東洋の色彩がコラボした重厚感のある空間。明るいオープンテラスにはヨットハーバーからの潮風が抜け、実に気持ちいい。しかも、広大なレストランなのだが、客は私たったひとり。BGMのガムランも音量で抑え気味で、久しぶりにゆっくりと食事を楽しむことができた。
初めての店でもあり、注文した料理は無難に海鮮ナシゴレン。塩気が強めだったが、悪くない。メニューは洋食系が多く、和食系と思われる料理もあった。ショットバーも併設されているから、グラスを片手に夜景を楽しむのもよさそうだ。
その昔、スイスのチューリッヒの湖畔にあるカフェで、1日の大半を過ごした日々がある。南洋のレストランとはまた別の世界だが、私にはどちらも心安らぎ、居心地がいい。コロナ禍にあっても、そんなお気に入りの場所がここジャカルタで見つかった事に感謝しよう。(長谷川周人、写真も)