自然あふれる癒やしの空間 近代動物園、ラグナン
新型コロナの感染拡大を防ぐ政府の行動制限が緩和に向かう中、南ジャカルタのラグナン動物園が営業を再開した聞き、行ってみることにした。ステイホームに疲れた人々はどんな表情をしているのか? 半世紀近く抱え続けた私的な〝宿題〟も、街中観察を合わせて片付けてこようという思惑もあった。
平日の非番を有効利用しようと、思い立ったのは朝8時。通勤ラッシュはピークを迎えており、幹線道路はオートバイがあふれていた。拙宅から動物園までは16キロほどだが、路上の「密」を避けるため、少々神経質な対応を迫られた。
とは言うものの、人々が街に戻り始めた今を実感するチャンスでもあった。オートバイによる取材はリスクもあるが、季節の移り変わりを感じ、庶民の暮らしぶりに触れることもできる。
ラグナン動物園に到着すると、まず広大な駐車場に驚いた。資料によれば最大収容人数は1万人。コロナ禍が始まる前、週末ともなれば家族連れなどで賑わったのだろう。しかしこの日のオートバイ置き場には20台ほどしかなく、8人の車両誘導員も手持ち無沙汰な様子。コーヒーを片手にスマホのゲームに興じていた。
さて、3回の検温を受け、手を洗うとようやく入場ゲートにたどり着いた。さっそく手渡された案内図を開いたが、想像を絶する広さにまたしても驚いた。敷地面積は147ヘクタールというから、東京ドームなら30個を超えるという動物園だった。
滞在できるのは2時間ほどしかなく、途方に暮れていると、レンタサイクルショップを見つけた。園内には循環バスも走っているが、取材を兼ねた移動には小回りが効く自転車がいい。さっそく借りだし、地図を片手にペダルを踏んだ。
園内は予想通り、来場者は少ない。家族を連れてデポック市から来たというブディさん(36)によれば、「ステイホームだから平日に動ける人も多いはず。でも、やはりみんな感染が怖く、出不精にもなった」。けれども、2人の小学生の運動不足と肥満が気になり、この日は思い切って「家族で歩く日にした」という。
園内を一巡してみて感激したのは、檻に閉じ込めた動物を〝見せ物〟とするだけの動物園ではないこと。生態展示と言うそうだが、より自然に近い飼育環境に努める近代動物園だった。これは子どものみならず、私のように写真を趣味とする大人にも、動物たちとの〝対話〟を楽しむ一時に癒やされる。
ところで冒頭、半世紀越しの〝宿題〟があると書いたが、その昔、メンテンにある故スハルト大統領の邸宅で、大統領がまだ小学生だった私にこう質問した。「日本の子どもたちも、新しいジャカルタの動物園は楽しいですか?」。
私の隣に立つのは、動物園のラグナン移設を実現した当時のジャカルタ知事、アリ・サディキン氏。彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて私の感想を待っていたが、実は動物園に行ったことがなく答えに窮してしまった。しかし、今なら即答しよう。「大統領閣下、大人になっても楽しいです」と。(長谷川周人、写真も)