バティックに時を忘れる テキスタイル博物館 ろうけつ染め体験
インドネシアの文化といえば、伝統的なダンスや音楽、各地方の料理、そしてバティックがある。長く滞在している日本人ならこの国の正装とされるバティックを持っている人も多いだろう。西ジャカルタのパルメラにテキスタイル博物館があり、そこではバティックを見て、体験して、購入することができる。今回はバティック作り体験にフォーカスした。
テキスタイル博物館は、19世紀にフランス人によって建てられた。1976年に博物館として開業し、修復された部分は多いが、床のタイルなどから歴史を感じられる。5年前に専属ガイドとなったソロ出身のディマス・アルディ・ヌグロホさんによると、博物館には毎日60人ほどが観光やバティック体験に訪れるという。新型コロナウイルスが流行る前は、学校からの課外授業などで多い日は一日200人は来館していた。
自然あふれる広い敷地を抜けて奥へ進むと、バティック工房がある。
鍋で溶かすろうに気をとられていると、まずサンプルの中から描く模様を選ぶよう促された。伝統的な模様からモナス(独立記念塔)や動物のイラストまで様々ある。
バティックで見たことがあるようなパターンを選び、それを白い布に鉛筆でトレースした。
隣で同じ作業をしていた20代前半の地元っ子に話しかけると、休日に友人たちとバティック作り体験に来たという。「かわいいから選んだ」と見せてくれたのは、オンデルオンデルのイラストだ。
写し終わると、プラスチックの型にはめて刺繍のような状態にする。いよいよ溶かしたろうで模様を描く工程だ。ろうを溶かした鍋の横に座ると、独特の香りがした。
アルディさんからチャンティンという道具を受け取った。万年筆のような仕組みで、木の棒に取り付けられた金属部分をろうに浸し、細い管の部分を上に傾けながら線を描く。一度ろうを布に付けると修正はきかない。ゆっくり慎重になぞった。初めは線の太さを均一に描くのが難しかったが、感覚をつかみ、無心になって作業を進めていた。
片面が終わると、今度は裏面にも同じようにろうをつけた。30分ほどで塗り終わり、最後にアルディさんに名前を書くよう勧められた。
工房の外に出ると染色用の場所がある。ここからは工房の人に任せ、染色の工程を見せてもらった。ナフトール染料が入ったバットに布を浸したあと、赤い染料に布を浸すと瞬時に反応して赤色が染み込む。その工程をもう一度繰り返し、より濃く染まったところで、タピオカ粉を入れた熱湯に漬け、ろうを溶かす。水ですすぐともう完成だった。染色工程は長い時間がかかると想定していたため驚いたが、乾かすとしっかり染まっていた。
バティック作り体験は1回3万5千ルピアで、時間に余裕があれば大きいサイズにも挑戦できる。何日か通って制作することもでき、駐在員の奥様や日本人学生にも人気があるという。
何世紀も前と同じ手法が今も受け継がれている。
そういった伝統工芸品は日本にもあるが、それを1時間ほどで体験が出来るのが、テキスタイル博物館のバティック作り体験だ。ジャカルタでまたひとつ、友人とも楽しめるし、一人でも夢中になれる場所を見つけた。
開館時間:午前9時~午後4時
入場料:大人5千ルピア
(文・三好由華、写真・長谷川周人)