異国で出会う親日の目 自転車・写真旅 水田風景を探して

 日本からの直行便がスカルノハッタ国際空港に向けて最終着陸態勢に入ると、機体の左前方に水田地帯か、湿地帯のようなエリアが見えてくる。北ジャカルタの最東端から州境をまたぎ、西ジャワ州にかかる広大な土地だ。前々から気になっていたが、「大規模社会的制限(PSBB)」の規制再強化がいつ始まるかも知れず、サイクリングを兼ねて行ってみることにした。(長谷川周人、写真も)

 というものの、地図を見ても目標になりそうなスポットは見当たらず、運を天に任せて向かってみる。でき得れば、水田地帯に沈む夕陽などの写真が撮れればと考えながら。
 しかし、予想に反しというのか、予習不足というのか、期待していた牧歌的な水田地帯などは見当たらない。地形から農村地帯であったことは想像できるが、今は工場や物流センターなどの建設現場ばかりだ。
 ゴミ捨て場から漂う異臭もあって気分は落ち込みがちだが、後戻りもできず、せめてプチ絶景を見つけ出そうとペダルを回し続けた。そしてようやく行き着いたのは州境となるバンジル・カナル・ティムール運河の河口にある夕陽スポット。ただ、すでに午後4時を回っており、ひたすら夕陽を待つことになった。
 この時にふと思ったのだが、潮風に吹かれて何もせず、ただ寝そべって夕陽を待つ。こんな贅沢な時間は、もう何年も過ごしていない。照りつける太陽の光を浴びれば、全身が細胞から活性化されるよう。人間も自然界に生ける物として、こんな時間も必要なのだろう。
 さて、お待ちかねのマジックアワーが始まった。晴天に恵まれ、空がオレンジ色に染まってくる。遠くにはタンジュンプリオク港に停泊する商船。養殖場のシルエットも美しい。わずか15分ほどだったが、自然界が織りなす夕陽ストーリーに酔いしれた。
 けれども、当初目的だった水田地帯の〝正体〟をもう少し見極めたいところ。近場の安宿に泊まり、朝を待つことにした。
 寝床探しはスマホアプリのホテル検索サイトから。南に10キロほど戻るが、20万ルピアとお手頃。近くで日本の大衆ファミレスのような食堂で海鮮料理を楽しむ事もできた。
 翌朝は4時に起床。前日のロケハンが失敗に終わり、夜明け前から改めて絶景探しに挑むことにした。
 カンプン(集落)を抜けると、暗がりにうっすら水田が見える。やった! ぬかるみに足をとられながら、徒歩で撮影スポットを探し始めた。その時、背後から近づく長身の男性に誰何された。「どこから来た? 中国か、韓国か?」。日本人だと答えると口調は穏やかになり、いい場所があると案内してくれた。
 30分ほどで撮影を終えると、彼は自分も自転車乗りと明かし、農村地帯を抜けて帰る道を先導してくれた。そして別れ際、「夢は富士山一周サイクリング」という。
 異国で出会う親日的な目とは、本当に嬉しいものだ。彼と握手に代えてひじを合わせ、いつか日本でと再会を誓った。機上から見た「水田地帯」は想像した風景とは違ったが、思いも寄らぬ出会いもあり、なんとも気持ちのいい朝になった。

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