静寂、集中の空間 テキスタイル博物館 バティック作りに挑戦
「バティック」はろうけつ染めのことと言われるけど、実際、どうやって作るのか。素朴な疑問から、西ジャカルタのテキスタイル博物館の工房を訪れた。
土曜の午前中に工房を訪れると、常連客らしき女性たちが、布に細かなバティックの模様を描いている。女性の隣には、やさしい煙を立てる小鍋のような物が置かれている。近づくと、ろうを少し焦がしたような、オイルのような香りが充満していた。好奇心が高まった。
バティック作りは、まずは模様選びから始まった。50センチ四方の木綿の布に、下絵を描いた。自由に図柄を描いても良し、工房にある100種類以上の図柄から選ぶこともできる。今回は、ゾウと花の柄を描いた。
いよいよ、ろうを付ける作業へ。工房の先生が手本を見せてくれる。「チャンティン」と呼ばれる道具で、熱したろうをすくう。ろうの滴が落ちないように、チャンティンのへりについたろうを落とす。生地は刺しゅうをする時のように固定し、チャンティンで絵柄の線をなぞっていく。10センチほど描くごとに、ろうを戻し、再びすくう作業を繰り返す。そして、生地の裏側も同じように線をなぞる。気の遠くなる作業だ。
実際にやってみると、線が細く、まっすぐ描けない。ろうもぼたぼたと落ちていた。手が疲れて早く動いてしまうと、「ゆっくり、ゆっくり」と先生から声が掛かった。やっと裏側に取りかかっても、どこに線を塗ったかがわからず、目を凝らしながら、作業を続けた。
先生が手直しをしてくれると、周りにいた参加者一同で、「なんで、そんなにきれいに描けるの」と声をそろえた。気を引き締めて、集中した。少し蒸し暑い、そしてろうの香り、周りのみんなは黙々と作業をしている。普段の生活で、なかなか体験できない独特な空間だった。
ろうをつけ終わると、染料に2回浸し、最後は沸騰したお湯でろうを落とした。
色は青と赤から選択。約2時間かけて、仕上げた「バティック」は、とても恥ずかしい出来映えになった。ただ、深い青色にくっきりと自作の絵柄が入るのを見ると、達成感だけは湧いてきた。
いつも見ているバティックは一体、どんなに手の込んだ物なのだろう。工房の常連でインドネシア人のエリーさん(48)が作っていたバティックは、細かい図柄と厄除け人形「オンデル・オンデル」が描かれている。制作の合間に昼食をとるエリーさん。バティックづくりは、1月に始めたばかりという。毎週、この工房に通い、自宅にもバティックの制作セットがある。「バティックづくりは、最初は難しかったけど、自分にとってはエンターテインメント」と話していた。
日本人のリピーターの姿も。ジャカルタ在住の主婦、武田芳美さん(28)は、来イした友人の難波靖代さん(28)と一緒に工房へ。武田さんは4回目の利用という。集中しながら、伝統文化を体験できるのが魅力という。
また、バティックの制作歴が9年というベテランの竹田有希さんは、カメや金魚などをあしらった大作を制作。米粒のように小さな点や線で模様を描いていた。バティックの魅力を「写経みたいに夢中で描いている」と例えていた。(木許はるみ、写真も)
Textile Museum
住所 Jl. Aipda KS Tubun No. 2-4, Jakarta Barat
ウェブ http://museumtekstiljakarta.com/