天に二日無し

 今月20日に控えたプラボウォ政権の発足を前に、ジョコウィ大統領の政治パフォーマンスが注目を浴びている。とくに先週の火曜日、プラボウォと2時間半、サシで夕食を楽しんだ様子を、自身のSNSにアップした。大統領周辺は、政権移行がスムーズに進んでいる証だとメディアに説明する。他方、政界では、逆に両者の間の溝を示しているとの見方もある。
 実際、二人の関係は複雑だ。ジョコウィは、息子のギブランが次期副大統領であっても、退任後の安泰が保証されているとは思っていない。自身も息子も、主要政党の後ろ盾を持たないため、今後、権力を発揮する基盤がないことをよくわかっている。
 副大統領の権限は、大統領の意向次第だ。プラボウォが、頃合いを見てギブランを干す可能性は十分ある。いかにそれを避け、5年後にギブランを大統領候補に成長させるか。それがジョコウィの政治的サバイバル本能となり、プラボウォとの関係で微妙なギャップを生んできた。
 例えば、メガワティ率いる闘争民主党への対応である。プラボウォは、メガワティとの関係は良好で、できれば新政権下の連立与党に加わってほしいと考えている。それを前提に、20日の政権発足の前に両者の会談がセッティングされており、ナシゴレンを食べて和解というシナリオで動いている。
 ジョコウィは、闘争民主党の政権入りに反対だ。反ジョコウィを強める同党は、国会で最大議席を保持する。当然、政権入りすればプラボウォとの距離も近くなり、ジョコウィとギブランを政権から遠ざける様々な策を打ってくると思われる。
 なかでもジョコウィが警戒するのが、ギブランの弾劾シナリオである。ギブランは否定するものの、彼のものと思われるSNSアカウントの10年前の投稿が今になって話題になっている。そこには、プラボウォと彼の息子に対する非常に醜い誹謗中傷が書かれていた。そのアカウントのデータを、政府機関が動いて抹消したことも報道され、ますます疑惑の信憑性が高まっている。10年前の選挙時の話とはいえ、政策批判ではなく、極めてプライベートな話をネットに晒され中傷されたプラボウォ一家は、どう思っているか。水に流せる話ではないはずだ。
 仮に闘争民主党が音頭を取って、ギブランの行為を憲法第7A条で定める「道徳的背徳」と糾弾し、弾劾運動を起こしたらどうなるか。もちろん弾劾には長いプロセスがあり、法的には簡単でないものの、ほぼオール与党の国会で政治的なコンセンサスがあれば不可能ではない。新副大統領に、メガワティの娘のプアン国会議長を担いで、政権基盤をより強固にするシナリオさえ話題になっている。
 その状況下で、今週プラボウォとメガワティの「ナシゴレン会合」が予定されている。ジョコウィとしては、その前にプラボウォとじっくりサシで話して、信頼を確認しておく必要があったと思われる。息子の問題のダメージコントロールも試みたかもしれない。
 このように、プラボウォとの2時間半会食をSNS配信し、関係良好をアピールしたジョコウィの内心には、多くの不安も秘められていよう。20日になれば、ジョコウィは一気に権力を失う。プラボウォも、天に二日無し、国に二君なしの政治を進めるであろう。両者のドラマは新たな幕を開けようとしている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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