憲法裁と政党のバトル

 先月末、憲法裁判所は、再び民主政治の改善に向けた重要な判決を下した。同時選挙の廃止である。有権者が、過去2回の総選挙のように、大統領、国会議員、地方代表議員、州議会議員、県・市議会議員を同時に選ぶ、通称「五つの投票箱」制度を違憲としたのである。
 これは、昨年8月と今年1月に、地方首長選と大統領選への出馬の足切り規定を大幅に緩和した憲法裁判決に続く、第三の衝撃として政党幹部を悩ませている。憲法裁の判決は最終かつ拘束力を持つ。政党が従わない場合、昨年8月と同様に市民の大きな抗議運動を招くだろう。
 今回の判決で、憲法裁は国政選挙と地方選挙の切り分けを命じた。理由は、一度に五回も投票する現行制度では、投票者の関心は散漫になり、国政の問題に焦点が集まり地方固有の争点が軽視されると指摘した。
また同時選挙は、政党にとっても全土で大量の候補者を準備しなければならず、それがリクルートの質的悪化を招き、政策や理念より金権政治に長けた候補者を増やしていると批判した。
 その解決策として、国政選挙と地方選挙を切り分け、2029年には大統領選挙と国会議員選挙、そして地方代表議員選挙。その後、早くて2年後、遅くても2年半後に地方首長選挙と州・県・市議会議員選挙を実施せよ。そういう判決を下した。
 多くの市民社会組織は、憲法裁の主張を「民主主義の回復」として全面的に支持する。逆に政党エリートたちは、判決に不服な態度を強めている。彼らは、憲法で5年に一度と定めた議員選挙を、29年に地方議会で実施させない判決こそが憲法違反だと訴える。その状況で31年まで任期延長となる地方議会議員や地方首長に正当性はなく、主権在民の原理から逸脱する非民主的な判決だと批判する。
 しかし、政党や国会に違憲を判断する権限はない。それは憲法裁の管轄であり、判決は覆らない。ではどうするか。考えられるのが、巨大与党連合の力で、憲法裁に関する法律を改正する動きである。憲法裁の権限を縮小し、政党に反抗的な判事を解任できるようにする法改正だ。それが始まったら、政党エリートと憲法裁の全面バトルとなるし、後者の去勢は民主政治のさらなる後退をもたらそう。
 政党リーダーたちは、これまでの同時選挙に大きな既得権益を見出してきた。その解体は不都合でしかない。憲法裁判決への真の抵抗理由はそこにある。
 例えば、今のプラボウォ政権の巨大与党連合にとって、同時選挙は国政から地方まで有機的に選挙戦を展開できるため、連合内で地方横断的な取引を可能にしている。昨年、西ジャワ州知事選で、ゴルカル党がグリンドラ党に候補者の擁立を譲ったが、そういう談合政治がやりやすい。
 また同時選挙だからこそ、大統領候補を出す政党は、コートテール効果で、中央でも地方でも選挙の主導権を取れる。大政党は、この特権を失いたくない。小政党でも、29年選挙は大統領候補を出せるため、地方議会レベルまで届く便乗効果を期待していた。それも難しくなる。
 さらに「現職の優位性」も、同時選挙でより効果を発揮する。中央から地方までの行政資源を選挙時に一括動員できるのが同時選挙であり、その切断をプラボウォのグリンドラ党が黙っているわけはない。
 今回の憲法裁と政党のバトルの行方は、単に選挙制度の問題に留まらない、今後の民主政治の重要なゲームチェンジャーになるだろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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