学生デモの衝撃

 2月17日から全国各地で始まった、学生と市民団体による連日の政府批判デモ。現在はラマダンのため一時休止しているが、すでに第二幕に向けた準備が進められているという。レバラン休暇後には、さらに本格化するとみられる。
 学生らは「暗黒のインドネシア」というキャッチコピーを掲げ、政府に13の要求を突きつけている。その議論に過激な主張はなく、むしろ合理的かつ政策的な批判と要求に終始している点が印象的だ。
 中でも最大の要求は、プラボウォ大統領が1月末に発令した「予算効率化」政策の撤回、そして政権の看板政策ともいえる無償給食プログラムの全面見直しである。学生たちは、突然の予算効率化によって政府資金が停止し、学生生活に深刻な影響を及ぼしていると訴える。また、無償給食は単なるポピュリスト政策に過ぎず、富裕層への恩恵を減らせば、約50兆ルピアの財源を確保でき、過激な予算削減の必要もなくなると主張している。
 このデモはSNSを通じて全国に広まり、ハッシュタグ #IndonesiaGelap2025(暗黒のインドネシア2025)がトレンド入りした。さらに、オーストラリアやドイツでも連帯デモが展開されている。プラボウォ政権は、発足からわずか3カ月で大規模な抗議運動に直面しており、今後の対応次第では大きな政治的変動につながる可能性もある。
 一方、プラボウォ周辺は今回の抗議デモをまだ軽視している。都市部の中間層を中心としたリベラル勢力が扇動しているとの見方が強いためだ。1月末の世論調査によると、プラボウォ支持は圧倒的に低所得者層に多く、彼らの支持を維持できれば政権は安泰と考えている。そのため、無償化政策は政権基盤を固める上で依然として有効な手段とみなされている。これはジョコウィ前大統領から学んだ、階級分断を利用した政治戦略の一環ともいえる。
しかし、今回のデモが社会階層を超えた大規模な運動に発展する可能性も否定できない。予算効率化の影響で、各地の公共事業がストップしている。特に公共事業省の予算は約75%削減され、その影響は計り知れない。
 実際、インドネシア国民が一年で最も楽しみにしている ムディック(帰省) が、ラマダン明けに控えている。毎年、多くの人々が大渋滞を覚悟で車やバイクに大荷物を積み、故郷へ帰る。この帰省がスムーズに進むかどうかは、毎年レバラン後に行われる世論調査で政権評価の重要な要素となってきた。
 雨季のこの時期、アスファルトは傷み、道路や橋の陥没も増える。しかし、予算不足のため補修工事が進まず、帰省の混乱や事故の増加が懸念される。こうした事態は、確実に低所得者層の政権への不満を高めるだろう。このタイミングで、社会階層を超えて学生デモへの支持が広がれば、運動が一気に加速する可能性がある。その意味で、4月の世論調査の結果は政治的に極めて重要となる。
 仮に政権支持率が急激に低下した場合、連立政権内で不協和音が生じることも十分に考えられる。そうした展開を見据えると、今回のデモのインパクトはまだ未知数と言えるだろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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