ジェマ・イスラミアの解散

 国際的に有名なインドネシアのイスラム過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)が、6月30日に組織の解散を宣言し、国内外から注目を浴びている。JIといえば、バリ島での爆破テロ(2002年と05年)や、ジャカルタのマリオットホテル(03年)や豪州大使館(04年)への自爆テロで知られる。
 あれから20年。今の組織のリーダーたちが、突然の解散声明を出した。どんな意味があるのか。
 まず、暴力的過激主義に関与してきた勢力が、組織の解散と今後の健全な活動を訴えたことは、インドネシアのテロ対策の長年に渡る努力の成果であろう。国家警察の対テロ特殊部隊と国家テロ対策庁を中心に、市民社会や宗教・教育組織も巻き込んだ「社会一体アプローチ」を目指し、総合的なテロ対策に取り組んできた。今回も、対テロ特殊部隊の説得に応じる形で、JIが声明を出すに至っている。JIの解散は、ひとつの時代の終わりを意味しよう。
 しかし、その解散声明でテロの脅威がなくなるのか。そうとも言えないのが現実である。まず、6000人以上いるJIメンバーの中には、シリアやフィリピンのミンダナオで訓練を受け、駐留しているジハーディスト(聖戦士)も少なくない。
 彼らは、シリアでは軍事作戦の経験を積んでいるし、ミンダナオでは誘拐や武器密輸、奇襲攻撃の訓練を積んでいる。JIが組織として解散しても、こういうJI海外組が帰国して別組織を作ったり、既存の別組織と再編する可能性は大いにある。その意味で、脅威は温存されている。
 また、解散するということは、JIという非合法組織の看板を掲げないということでしかなく、逆に今後は堂々と表社会に出て、合法的な活動を広げると言っているのに等しい。その活動とは、ビジネスと政治だ。
 JIは08年に非合法化され、それ以降はリーダー格のパラとルスダンを中心に非暴力路線を貫いてきた。彼らは「新JI」の運動として、草の根での教育と資金調達に精を出してきた。
 例えば、コンビニなどにシリア難民救済の募金箱を設置し、集めた資金の一部を抜いて活動資金に当てていた。またJI傘下の慈善団体も数多く、資金調達の源になっている。コロナ禍では、患者救済のチャリティーを組織し、一般市民から寄付を集めて組織に還元していた。
 そういう集金力を元に、ジャワ島各地やランプン州などでプサントレン(寄宿学校)の設立・運営資金を作ってきた。JI系のプサントレンは70校ほどあり、過激な教育を拡散してきた。卒業生は1万5千人を超える。
 JIの看板を下ろすということは、これらのビジネス・教育運営が、今後は地下活動ではなく表の活動として維持されることを意味する。
 さらには、組織を解散することで、JIメンバーが公的な社会団体や政党に入り込みやすくなる。国家や社会に浸透して、内部からJIの政治ミッションを広めていく長期戦略を模索していても不思議はない。
 今回の解散声明は、インドネシアのテロ対策が成果を上げていく中で、JIも環境適応を迫られ、大きく方向転換しようとしている姿を反映している。そのインパクトが見られるのは、もう少し後になろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

メラプティ の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly