地方首長選を振り返って
先月末、統一地方首長選挙が実施された。その結果は、プラボウォ政権の今後にどう影響するのか。3つのポイントから考えてみたい。
まず重要なのが、プラボウォ率いるグリンドラ党の大躍進である。2月の大統領選と議会選では、プラボウォ大統領は誕生したものの、党のほうは闘争民主党やゴルカル党より票が取れず、国会第三党に留まった。その屈辱を晴らしたのが今回の首長選だ。
まだ正式結果は出ていないものの、開票速報からは、州知事選挙を実施した34州中21州でグリンドラ党の候補が当選する見込みである。逆に勢力を大きく削られたのが闘争民主党で、単独で州知事を確保できそうなのはジャカルタやバリを含めて6州のみだ。
このことは、中央から地方まで、グリンドラ党のネットワークが強化されることに他ならない。プラボウォ政権の地方レベルでのグリップが強まる。その結果、政策的なシナジー効果が高まることになろう。
第二のポイントは、ジョコウィ前大統領の役割だ。先の大統領選以来、対立関係にあるジョコウィとメガワティだが、今回の首長選が両者のリマッチにもなっている。特に、これまでメガワティ率いる闘争民主党の岩盤地域であった北スマトラ州や中部ジャワ州で、ジョコウィの後押しする州知事候補が同党の候補を撃沈している。
北スマトラ州を制したのはジョコウィの娘婿だ。中部ジャワ州は、メガワティが推すアンディカ元国軍司令官と、ジョコウィが推すルトフィ前中部ジャワ州警本部長による代理戦争となり、後者の圧勝となった。
ジョコウィ効果は明らかであり、これから2029年選挙を見据えて、各政党の党首たちは、彼を陣営に取り込もうという思惑を強めるであろう。特にグリンドラ党は、次の選挙で国会第一党に躍進するためにも、ジョコウィ支持票が大きな助けになる。
しかもジョコウィが再び大統領に復帰することはないので、プラボウォや党にとって全く脅威とならない。むしろジョコウィを取り込むことで、プラボウォの再選シナリオも現実味が帯びてくる。政界にとって、今回の首長選はジョコウィの政治価値を再認識する機会となった。
最後に、選挙ガバナンスの低下も重要なポイントだ。世界的にも類を見ない今回の大規模な統一地方首長選挙は、選挙管理能力の限界を露呈した。各地で金権バラマキと票買収が横行し、不透明な開票作業が問題になっている。従来の比ではない。
このことは、「直接首長選は金がかかりすぎるので廃止にすべき」という政府の発想に拍車をかけよう。特にパプアなどは、票買収に加えて暴力事件も常に勃発しており、内務省は選挙制度改革も含めた政治関連のオムニバス法案を検討している。
そこでは、地域の開発レベルに合わせて直接選挙を維持する地域と、そうでなく地方議会による間接選挙にする地域、さらには選挙も廃止で中央が知事を任命する地域に分類する案が練られている。国民一人一票の原則を捨て、貧しい地域から投票権を奪うこの発想は、選挙制度の改悪であり、民主主義のさらなる後退をもたらしかねない。
その意味で、今回の首長選挙は、プラボウォ政権の安定強化につながる一方、それが危ない方向に向かう可能性も示唆していよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)