憲法裁判所の逆襲
2025年、早くも大きな政治的ハプニングが政界を揺るがした。元旦翌日に下された憲法裁判所の判決である。それは大統領選挙に関するもので、これまで立候補者は「20%以上の国会議席、もしくは25%以上の得票率を有する政党または政党連合」が擁立できると選挙法で定められていた。しかし、憲法裁はその規定を違憲とし、どの政党でも自由に立候補者を出せるよう選挙法の改正を求めた。
憲法裁の判決は最終的で拘束力がある。このため、29年の大統領選挙からは、新ルールの下で、フレッシュな大統領候補が出馬しやすい環境が生まれる可能性がある。有権者にとって選択肢が増えるのは望ましいことだろう。
小中規模の政党も判決を歓迎している。これまで大政党による数の論理と談合で立候補者が決められてきた状況を打破したいからだ。小党でも、人気のある大統領候補を自力で擁立すれば、自党への国民支持を広げることが期待される。
一方、ゴルカル党やグリンドラ党などの巨大政党は、納得できない姿勢を匂わす。20%の足切り規定があったからこそ、自党を軸に連立工作を有利に進めることができていた。その特権を失う彼らが、5年後の選挙で優位を保てる保証はない。この意味で、憲法裁の判決はエリート談合政治の固定化を防ぎ、民主選挙の活性化に貢献する契機になると評価できるだろう。
なぜ憲法裁は今回の判決に踏み切ったのか。その背景には法的というより、極めて政治的な理由がある。実際、過去に30件以上、同様の違憲審査要求があったが、憲法裁はすべて却下してきた。今回が初めての受理で、しかも全面的な違憲判決となったのである。
憲法裁は、過去の教訓が今回の判決を導いたと主張している。その教訓とは、14年以降の大統領選挙を指す。20%ルールの存在により、候補者ペアが2組に限定される傾向が続き、敵対的な分断選挙に発展することもあった。また、現職が再選を狙って立候補する場合、強力で支配的な与党連合に対抗する野党の立候補者が出にくい状況も生まれた。そのような事態が続けば、対抗馬のいない単一候補という展開さえ招きかねない。
憲法裁は、この懸念の根本原因が20%ルールにあると指摘し、その結果として国民の政治権利と主権を侵害しており、憲法に違反していると強調した。非常に政治的な議論である。
その背景に憲法裁の政治的な巻き返しがある。昨年の大統領選挙では、憲法裁が大統領選への出馬条件を緩和し、本来なら年齢要件を満たさないギブランの立候補を可能にしてしまった。憲法裁判事の多くは、その失態を教訓とし、民主選挙の健全化に向けて政治に反撃しているように思える。
昨年8月には、憲法裁が地方首長選挙における20%ルールを違憲とする判決を下した。このとき、与党連合が反発し、憲法裁の判決を無視しようとしたため、大規模な反政府デモが発生し、与党は最終的に折れた。今回の憲法裁の攻勢は、その延長線上にある。
民主主義の守護者と呼ばれてきた憲法裁は、ジョコウィ前政権下で、その独立性が脅かされる政治圧力を経験してきた。その圧力から開放され、本来の憲法裁の姿を取り戻そうとしている。今後も憲法裁の反撃は続くのか。プラボウォ政権のレッドラインはどこなのか。その駆け引きが、すでに始まっている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)