誰がジャカルタを制すか
プラボウォ政権下で初の統一地方首長選挙が、今月27日に控えている。37州の州知事と508県・市の県知事・市長を選ぶ選挙だ。2億人を超える有権者が、今後5年の地方行政を担うリーダーを選出する。プラボウォ時代の中央・地方関係を決定づける大事なイベントになる。
なかでも注目はジャカルタだ。8月以降、世論調査でトップを走ってきたリドワン・カミル候補(前西ジャワ州知事)が失速している。逆に、プラモノ・アヌン候補が支持率を大きく伸ばしている。この調子で行くと、後者が当選する可能性が高くなっている。何が起きているのか。
カミルはプラボウォ政権の与党連合に擁立されて出馬した。当初、彼が所属するゴルカル党は擁立に反対だった。カミルの地盤は西ジャワ州なので、同州での再選を狙うべきだと考えていたからだ。
その党の方針を強引に変えて、カミルをジャカルタで出馬させたのがジョコウィ前大統領だ。ジョコウィは、先の大統領選で敗北したアニス・バスウェダン(前ジャカルタ特別州知事)が、再びジャカルタの州知事に返り咲くことを嫌がった。理由は、5年後の大統領選に再出馬するステップになるからだ。より具体的には、5年後に息子のギブラン副大統領の強力なライバルになる可能性を潰すことにある。
誰がアニスに勝てるか。西ジャワ州で人気のカミルなら対抗できる。そう考えたジョコウィは、プラボウォや与党リーダーたちを説得し、カミルをジャカルタで出馬させた。プラボウォにとっても、アニス落としは自身の再選シナリオに好都合だ。
結局、アニスは様々な妨害の末、ジャカルタの州知事選には出馬が叶わなかった。興味深いのは、その後だ。野党でメガワティ元大統領率いる闘争民主党が、アニスではなく、自党のプラモノの擁立を決めたことで、政治力学が大きく変わった。
プラモノはジョコウィ政権の内閣官房長官である。ジョコウィともプラボウォとも仲が良い。しかも、重要なことに5年後の大統領選に野心を持たない。つまり彼らの脅威にならないということである。
そうなると、今度は逆にカミルのほうが5年後の警戒対象となる。若くて都会的センスにあふれるカミルがジャカルタの州知事になれば、おそらく人気は広まり、次期大統領としての国民期待も高まろう。その芽を摘むモチベーションが、ジョコウィとプラボウォに共有されつつある。
そのため、積極的にカミルを後押しする選挙活動を行わなくなった。プラボウォは自分の政権の運営で忙しい。ゴルカル党のバフリル新党首も、ジョコウィの意を汲んで動かない。他の与党も傍観を決め込んでいる。カミルは、はしごが外されつつあることを感じていよう。
一方のプラモノは、効果的に選挙戦を進めている。アニス支持のボランティア団体に接近し、アニスの政策を引き継ぐことと引き換えに、票動員を約束させている。イスラム票を意識して、闘争民主党のカラーを抑えたキャンペーンも展開する。ジョコウィやプラボウォとの親密度もアピールする。結果、最新の世論調査ではカミル支持を上回るようになった。
目まぐるしい権力闘争の末、最後に笑うのは誰か。ジャカルタの選挙が熱い。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)