プラボウォの国軍
次期プラボウォ政権が、どのような内閣を形成するか。メディアは、その憶測で賑わっている。政党も、大臣ポストをいくつ取れるかの憶測話で忙しい。
そんな中、あまり注目されないものの、次期政権への移行で非常に重要なのが国軍の管理だ。ジョコウィ時代とは違った人脈で、国軍人事が展開される。それに希望を持つ者も、そうでない者もいる。その管理を間違えると、政治と治安の不安定に発展しかねない。プラボウォは、いかに国軍を掌握していくのか。
プラボウォは過去5年間、国防大臣を務めてきた。そこでパトロンとして囲ってきた将校たちが、次期政権下で国軍の重要ポストに昇進することが予想される。その代表格は4人いる。
まず、前国防省教育訓練庁長官のタンドヤ・ブディ中将(陸士91年卒)である。ブディは昨年末、大統領選でガンジャル候補の地盤だった中部ジャワ州に拠点を置く、中部ジャワ軍管区司令官に配置された。そこでプラボウォの勝利を見届け、選挙後すぐに陸軍副参謀長に昇進した。次期政権下で陸軍参謀長に抜擢される可能性がある。
また、前国防省防衛力局長のファジャール少将(陸士93年卒)も注目される。彼は、選挙後すぐに西ジャワ州軍管区司令官に抜てきされている。このポストは、歴代の出世コースである。
国防大学幹部のルイ・ドゥアルテ少将(陸士93年卒)も、存在感を高めている。ルイは東ティモール出身で、プラボウォが90年代に陸軍特殊部隊(コパスス)の司令官だったときの副官だ。プラボウォは、国防大臣に就任すると、すぐにルイを国防省に招集し、中部カリマンタン州で計画する食糧農園開発プロジェクトの監督役を命じた。ルイは今後もプラボウォの側近として影響力を強めると思われる。
そして、おそらく最も注目すべきが前国防省国防戦略局長のバンバン・トリスノハディ少将(陸士93年首席卒)であろう。国防省の局長のなかでも、同ポストはもっとも威信が高い。彼も選挙後、バリ州に司令部のあるウダヤナ軍管区司令官に任命された。また彼は、プラボウォがコパスス副司令官に就任した94年、同部隊に配置されており、その時からプラボウォが目をかけてきた。
以上のような「プラボウォの将軍」たちが、次期政権で軍内影響力を持つと思われる。中でも陸士93年首席卒のトリスノハディに、同期の大きな期待がかかる。今のアグス国軍司令官とマルリ陸軍参謀長は、「ジョコウィの将軍」であり、二人とも陸士91年卒である。組織の順調な世代交代には、93年卒の出番が正当性を持とう。
陸軍参謀長のポストには、陸軍副参謀長か戦略予備軍司令官が最も近道だ。特に後者はエリート部隊のリーダーとして、絶対的な権威を持つ。トリスノハディが狙う次のポストはここであろう。10月の政権交代までに、その人事が行われるかどうかが、今後の注目点となる。
プラボウォ政権下で、国軍そして国家警察という国防と治安組織はどのような性格を帯びていくのか。政党の連合形成や、大臣ポストの交渉ばかりがメディアの注目を浴びるが、この国の政治と治安の安定にとって実は同じように重要なのが、国軍と国家警察を掌握する政治である。今後も、そこに光を当てていきたい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)