活気づく春節前夜の中華街 ガンジャル氏に遭遇 西ジャカルタ・グロドック
ジャカルタに赴任したのが2月初旬。それ以前はインドネシア大学に留学していたが、ジャカルタの中華街に行ったことがない。時はイムレック(春節、中国の旧正月、今年は2月10日)——。華僑・華人社会が最も賑わう好機で、西ジャカルタの中華街、グロドックに足を運んでみた。
その日は翌日に春節を控えた中華圏の「徐夕(大晦日)」。グロドックのパンチョラン通りには、春節の飾り物を売る露店がずらりと並び、街は紅に染まっていた。
街中で見かけるようになった色鮮やかな提灯が気になり、露店で店番をしていたムハンマド・アンガ・サプトゥラくん(15)に話を聞いてみた。
インドネシア語で「ランピオン」と呼ばれるこの提灯は、形が「繁栄と運気」を意味し、紅色は「福を招くめでたい色」だそう。大きい物なら100万ルピア。小さいものなら5000ルピアという。
「明日はイムレック。今夜が最後のかき入れ時だよ」。ムハンマド君は大張り切りだった。
コロナ禍の収束でグロドックにも活気が戻った。海外渡航を厳格に制限した中国大陸のいわゆる「ゼロコロナ政策」も解禁となり、中国人観光客への期待が膨らむ。
やはり春節グッズ売りの露天商、アグン・イスマイルさん(26)は「今日は客が100人を超えたよ」と上機嫌。売り上げはコロナ禍前より15%増えそうで、落ち込んでいた商売も上向いてきた。
さて、中華街といえばお楽しみは食事。大晦日とあって午後7時には多くの店がシャッターを下ろしていたが、飲茶の老舗パンチョランティーハウス(汲泉茶舎)が開いていた。
一際目立つその建物が建てられたのは1928年のこと。改装を重ねて2016年に現在の状態になった。店内にはアンティークな調度品や茶器があり、レトロな雰囲気に気分は盛り上がる。蒸した点心やアスパラガススープを注文したが、中でもクリーミーなソースを和えた春菊の料理は絶品。野菜が不足しがちなジャカルタで中華料理のありがたさが身に染みた。
腹ごしらえができたところで、1650年に建立されたジャカルタ最古の中国寺院「金徳院」へ。2015年に起きた火災で本堂が全焼、奇跡的に残った観音菩薩は仮設の仏堂にあった。焼け落ちた本堂は修復工事中で、寺院で働く華僑のブディマンさん(58)によると、「柱となる石材が中国から届くのを待っている」という。
立ち話をしていると、大統領候補のガンジャル・プラノウォ前中部ジャワ州知事が姿を見せた。大統領選の投票日を5日後に控えての票集めでターゲットはもちろん華僑・華人社会。この国で中国の存在感が増す中、それを背後で支える彼らの影響力は無視できないようだ。腰を据えて見守っていこう。(文・山本佑、写真・長谷川周人)