討論会と選挙戦の行方

 2月14日の大統領選挙に向け、過去3回、候補者討論会が行われてきた。12月に2回、そして今月7日に3回目。その7日のテーマは国防、治安、国際関係、地政学。支持率でトップを走るプラボウォ国防相の得意分野とされてきた。他候補との知識や経験の差を見せつける絶好のチャンスだった。
 地元紙「コンパス」の先月の世論調査では、まだ30%近くの回答者が投票候補未定とのこと。浮動票は都市中間層に集中する。そこを取りに行けるのか。7日の討論会は、プラボウォ陣営にとって、重要なイベントだった。
 しかし、結果は撃沈。プラボウォの準備不足が露呈した。自分の得意分野だと高をくくり、他候補を甘く見ていたのだろう。抽象的な話に終始し、ビジョンも戦略も明確に示せなかった。
 逆にガンジャル候補は、専門家の下で十分に準備し、新戦略も打ち出した。ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権が掲げた「世界の海洋軸」構想を発展させた「大洋護衛」構想。そして南シナ海問題における「暫定合意」構想。これらのビジョンは、地域の外交・安保コミュニティーに大いに響くものである。
 他方アニス候補は、プラボウォ攻撃に出た。プラボウォ国防相は34万㌶の土地を所有する大富豪だが、兵士たちは乏しい福祉で生活を強いられていることに道義的な責任を感じないのかと挑発した。また、副大統領候補のギブランに関して、憲法裁判所が「重大な倫理違反」をした末の出馬なのに、プラボウォは道義的な責任を感じないのかとも迫った。
 こういう挑発に対して、プラボウォは怒りを顕にした。興奮した口調で「君に言われたくない」などと反論。その結果、瞬間湯沸かし器並みにすぐカッとなる性格がお茶の間に披露され、これまでカワイイお父さん系の「ゆるキャラ」イメージで売り込んできた努力が一瞬で水の泡となった。
 この討論会を経て、何が変わるのか。ネチズンの反応はアニスの勝ち、プラボウォの負けだという。そうなると、もうプラボウォの挽回は難しいだろう。次の討論会は今月末だが、副大統領候補の討論だ。大統領候補による最後の討論会は2月4日。投票日間近で、浮動票に訴える効果は小さい。その意味で、3回目の討論会の持つ意味は決定的に重要になる。
 プラボウォ陣営は、ネチズンの影響も受けやすい浮動票の支持増大は諦めざるを得なくなった。多くはアニスに流れると見ている。そうなると、プラボウォの支持率拡大のラストスパート作戦は、ガンジャル支持層の切り崩しに絞られる。
 ガンジャル支持の岩盤地域は中部ジャワ州と東ジャワ州だ。さっそく、東ジャワ州知事のコフィファがプラボウォ支持を表明し、選対チームへ参加を決めた。地元で高い人気を誇るコフィファは、プラボウォ票の動員がミッションとなった。
 中部ジャワ州ではジョコウィ自身が南部の村々に乗り込み、生活支援物資を支給し、村落基金の増加や公務員給与アップなどを約束して回った。これは政権支持率を上げる狙いに加え、息子ギブランへの援護射撃でもある。ガンジャル陣営は不満を募らせている。
 さらにガンジャル支援の全国ボランティア組織「ガンジャル友の会」も突然解散。プラボウォ支持への乗り換えを表明した。これもガンジャル票の切り崩し作戦の一環だ。
 これから1カ月、その作戦は加速していく。狙いは51%以上の得票率で、一発勝利だ。届くか届かないかの際どい結果が予想される。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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