流れついた海洋ごみ マングローブ林を覆う ブカシ県沿岸部の村
ジャカルタ生活をしていて、海岸に流れ着くごみの多さを目の当たりにすることは少ない。だが、企業が実施したマングローブ植樹の取材で、ブカシ県沿岸部の村を訪れる機会を得た。印象に残ったのは緑のマングローブ林より、木々の下に貯まる流れ着いたおびただしい海洋ごみだった。
ジャカルタから車で2時間半ほどのブカシ県ムアラグンボン郡パンタイ・スドゥルハナ村。海を目の前にする村の家々は、いわゆる海抜ゼロメートル地帯。満潮時には浸水してしまう貧しい人々が暮らすエリアだ。ブカシ県は首都圏内にありながら、この地域は携帯電話の電波は微弱で、通信環境はぜい弱だった。
取材に向かう途中、マングローブ林に架かる竹製の通路を渡った。海に面した会場に近づくほど、マングローブに絡みつく海洋ごみが堆積。植樹活動に参加した村人にごみはどこから漂着するのかと尋ねてみると、「ジャカルタからだよ」と苦笑する。
マングローブ林をさらに突き進み、植樹をする会場まで待機していた小さなボートに乗った。
洋上から見るマングローブ林は、あの海洋ごみは隠れ、太陽に照らされたきれいな緑地帯。洋上からマングローブ林に入っていくのは初めてのことでもあり、気持ちが高ぶった。小学生や中学生がこんな体験ができると、環境の保護や自然破壊の現実に興味を持ち、身近に感じることができるだろう。
取材活動が終わり、またボートで出発地点に戻る。するとまた、マングローブの下に無数の浮遊物が見える。流れ着いたごみだった。
CO2の吸収源となり、海面上昇の減少を防ぐ一助となるマングローブ植樹活動は、企業にとっては持続可能な開発目標(SDGs)に向けた社会貢献になる。一帯は貧しい漁村でもあり、一部ではエコツアーなどが実施されるケースもあり、企業活動は地域経済の活性にも結びつく。
その一方、沿岸部に多いマングローブ林は、海洋ごみの掃き溜めになるという、もう一つの重大な社会問題の現場でもある。海から流れ着くものもあれば、内陸から河川を通って運ばれてくるものもある。
今年はインドネシア各地で干ばつが発生するなど、エルニーニョ現象による異常気象の現状を肌身で感じる思いをした。地球に労りを——。わずか1時間ほどの短い取材だったが、格差社会が生む貧困問題も含め、人類が抱える多くの課題の現実を突きつけられる思いをした。(坂田恵愛、写真も)