ギブラン出馬の衝撃

 先月末、政局が大きく動いた。ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の長男ギブランが、次期大統領候補のプラボウォ国防相の副大統領候補として出馬が決まったからである。この展開は、政治と選挙に大きな影響をもたらす。
 第一に、ギブランの出馬は法律を無理やり捻じ曲げた結果で、それを可能にした憲法裁判所に対する政治的信頼性の失墜だ。すぐに憲法裁倫理委が招集され、憲法裁長官を重大な倫理違反と認定し解任したものの、憲法裁判所が独立性を大きく失い、政権の政治ツールになってしまったことで、来年の選挙に大きな懸念を与えよう。
 なぜなら、選挙結果は常に揉めるからであり、その最終的な決着は憲法裁の判決に委ねられてきた。過去2回の大統領選でも、プラボウォ陣営は敗北を認めず、支持者による暴動まで起きたが、最後は憲法裁の判決で試合終了となった。
 その前提には、憲法裁に対する信頼の共有があった。その信頼はいま失われている。このまま大統領選や議会選に突入し、得票結果をめぐり争いが起きたときに、中立性が疑われる憲法裁の判断に誰が納得するか。対立が収まらず拡大する可能性が懸念される。
 第二に、ギブランの出馬は、ジョコウィとメガワティ闘争民主党との決裂を決定づけた。これまでジョコウィは、自ら所属する同党のガンジャル前中部ジャワ州知事を次期大統領選で支持する姿勢を示しつつ、プラボウォ候補にもテコ入れするという両天秤でやってきた。長男ギブランの出馬、そして次男カエサン率いる連帯党のプラボウォ陣営参加は、ジョコウィ・ファミリーの闘争民主党との決別に他ならず、全面対決の幕開となった。
 ジョコウィの決別の背景に、レガシーの継承がある。首都移転やインフラ開発、そして川下化政策など、彼が自分の功績として執着してきた国家プロジェクトがあり、プラボウォは、それらを継承すると約束する。その上で副大統領に長男を迎え、その政略結婚でジョコウィとのパワーシェアリングを制度的に保証しようとしている。メガワティに忠誠を示すガンジャルと、そういう関係は築けない。
 第三に、ギブランの出馬は選挙力学も変えつつある。都市中間層のリベラル市民は、ギブランの出馬を縁故主義の最たるもので、民主政治の危機だと訴えるが、さほど政治に関心のない大衆は、若干36歳の若者が副大統領候補、という一点を肯定的に見る傾向にある。その結果、リベラルが期待するほど、プラボウォの支持率は下がってない。
 むしろギブラン効果で、Z世代のプラボウォ支持は伸びている。またジョコウィ信奉者たちも、プラボウォ推しに流れる。特にジョコウィの地元の中部ジャワ州で、その流れが加速すると、プラボウォへの追い風となり、ガンジャルへの強い痛手となる。
 とはいえ、古くからのプラボウォ信奉者にはジョコウィ嫌いも多く、彼らはギブランと組んだプラボウォに幻滅している。ただ、その幻滅勢力は、ガンジャルや闘争民主党に流れるのではなく、「反ジョコウィ」のアニス候補(前ジャカルタ特別州知事)に多く流れると思われる。
 これらを考えると、ギブラン効果で支持率を高めるプラボウォとアニスが、今後の選挙戦を主導していく可能性がある。ガンジャルには再浮上に向けた戦略が求められよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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