カエサン連帯党の衝撃
先月25日、政局に大きなサプライズがあった。それは、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の次男カエサンが、「若者の党」を自称するインドネシア連帯党(PSI)の党首に就任したことに他ならない。この展開は、ジョコウィが所属する闘争民主党の幹部にとって大きなショックであり、怒りの声も内部で高まっている。何が起きているのか。
これは、来年の大統領選挙と次期政権に向けての、ジョコウィの「二股作戦」の一貫だ。今まで彼は、同じく闘争民主党所属のガンジャル前中部ジャワ州知事を大統領候補にするために、積極的に政治工作を行ってきた。その結果、同党のメガワティ党首はガンジャルの擁立を決めた。
しかしそれ以後、メガワティはジョコウィの関与を嫌い、ガンジャルの選挙準備を党主導で進めてきた。彼女にとって、ジョコウィやガンジャルは、あくまでも党員であり、党の兵隊として党首のために働いてもらうという意識が強い。そのため、もしガンジャル政権ができても、メガワティがキングメーカーとして君臨し、ジョコウィは遠ざけられる可能性が大である。
そのため、ジョコウィは二股作戦を進める。つまり別の大統領候補のプラボウォ国防相への加担だ。いまだ国民人気の高いジョコウィは、自らの後継者はプラボウォだと示唆する行動を取ってきた。その結果、プラボウォへの支持率は大きく高まり、ガンジャル人気と五分五分になっている。
そこにきて、息子のカエサンの政治デビューである。しかも連帯党という弱小政党の顔として、同党を実質的な「ジョコウィ党」として動かす計画だ。
連帯党の内部調査では、カエサン党首の下、次の選挙で9%ほどの国会議席数を確保できると読んでいる。その展望の背景には、第一に、ジョコウィ支持の草の根政治組織を全国で大量に動員して選挙キャンペーンに挑む計画がある。そして第二に、カエサンが訴える「若者による政治変革」が、Z世代とY世代に響き、世代間意識を新たな政治動員の基軸にできると考えるからだ。隣国のタイでも、若い世代の投票が前進党の躍進を可能にした。インドネシアでも若者の政治覚醒を牽引しようというのがカエサン、そしてその背後にいるジョコウィの思惑であろう。
このビジョンは、闘争民主党にとって脅威でしかない。ジョコウィが率いる草の根組織が、同党への支持を止め、他党の応援をすることになれば、間違いなく闘争民主党は多くの票を失う。メガワティの目には、これはジョコウィのサボタージュとしてしか映らない。
さらに、カエサン率いる連帯党の幹部は、大統領選挙においてもプラボウォ支持を示唆してきた。プラボウォも、カエサンが連立に加わればジョコウィとの一体性を象徴的にアピールできる。当のジョコウィは、「息子のことは関知せず」と公には距離を置くものの、このジャワ的な態度を鵜呑みにする政界人は皆無であろう。
このように、カエサン連帯党の誕生は、大統領選と議会選の両方で、メガワティに対するジョコウィの「静かな反逆」だと理解できる。彼は、自分の影響力をメガワティが認め、ガンジャル政権下でも蚊帳の外に置かれないという保障を得られれば、二股作戦を解除しよう。逆に、メガワティが徹底抗戦を決めれば、両者の関係は全面対決に発展する可能性もあろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)