プラボウォ連合の結成
昨朝(8月13日)、政局に大事な動きがあった。ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権を支える連立与党のうち、2つの政党、すなわちゴルカル党と国民信託党が、次期大統領選挙でプラボウォ国防相を支持すると発表した。これでプラボウォは、自ら率いるグリンドラ党と昨年から共闘を決めている民族覚醒党、そして今回の2党を含めて4党での連合を形成することになった。
これはガンジャル陣営にとっては大きな打撃だ。彼を擁立する闘争民主党と組むのは開発統一党だけだ。選挙キャンペーンが始まれば、政党の動員力も重要になる。支持政党の数の力が物を言う場面も増えてこよう。
なぜゴルカル党と国民信託党はプラボウォ支持を決めたのか。大統領のプッシュがあったからである。国民信託党は、以前ガンジャルを支持する態度を示していた。ゴルカル党もガンジャルとプラボウォの両者を検討していた。しかし、闘争民主党のメガワティ党首は両党を引き込む努力どころか、「お好きにどうぞ」と高飛車に振る舞ってきた。与党第一党の党首のおごりでしかない。
ゴルカル党も国民信託党も、闘争民主党と組む条件交渉さえできないのなら、ガンジャル支持を維持する理由もなくなる。逆にプラボウォ陣営からは、一緒に組もうとラブコールを受けてきた。
どちらにつくか。彼らはジョコウィの意向に沿って動くことに決めた。昨日の会見でも、ジョコウィ政権の路線を継続するためのプラボウォ支持と強調した。プラボウォ連合を実質的に束ねているのはジョコウィだといって過言でない。
では、このプラボウォ連合は誰を副大統領候補に選ぶのか。昨年からプラボウォ支持を決めている民族覚醒党は、党首のムハイミンが当然副大統領候補だと訴える。今になって参入を決めたゴルカル党と国民信託党に副大統領ポストを取られるなど、屈辱でしかない。
そのいざこざを回避するため、今回、ゴルカル党も国民信託党も副大統領の話は抜きにして、「プラボウォ支持」の一点で4党連合を実現させた。その上で、副大統領候補については追って4党で協議しようというスタンスに徹した。
こうなると、ムハイミンも協議は嫌だと言えない。また、協議の末、自分以外が副大統領候補になったとしても、怒って連合を離脱するという脅しも効かない。民族覚醒党が離脱しても、残り3党で正副大統領を擁立できるようになったからである。
この新たな環境で、誰がプラボウォの副大統領候補になるのか。連合の党首全員のメンツを潰さないことが重要だ。それには「ジョコウィに委ねる」というコンセンサスが効果を持つ。
ジョコウィも、その党首間力学をよくわかっている。そのため、プラボウォ連合の党首の中から一人を選ぶようなことはせず、外から連れてくるであろう。その最有力候補が、ジョコウィの右腕エリック・トーヒル国営企業相だ。
資金力抜群の彼には、自ら所属する国民信託党だけでなく、ゴルカル党や民族覚醒党からも選挙活動資金の負担を強いられるであろう。とくに副大統領候補のチケットを譲ることになるムハイミンには、かなりの補填を迫られそうだ。逆にいうと、それだけの資金力がなければ、プラボウォ連合をまとめきれないという話であり、その水面下の交渉が始まりつつある。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)