彷徨い込む歴史の謎 クスプハン王宮 西ジャワ州チルボン
小エビを発酵させて作る調味料「トラシ」の名産地として知られる西ジャワ州チルボンを訪れた。豊かな文化的・歴史的財産を有するチルボンで中核的存在となるのはクスプハン王宮。ジャカルタから車なら約4時間の距離と近く、都会暮らしを離れて地方の文化都市を歩き、心身ともにリフレッシュする機会になった。
王宮の第一印象——。タイムスリップしたかのようにチルボン王国の伝統的な雰囲気が漂い、巨大な映画撮影のロケ地を訪れたかのような気分になった。
異国情緒があふれる壮大なこの王宮の広さは約6㌶。建築の美しさだけでなく、その広さに驚き、思わず笑みがこぼれた。
王宮のガイドを務めるアグン氏の説明によれば、「この王宮の名前となるに『クスプハン』という言葉は、尊敬され、助言を求められる人たちを意味する」という。「そしてクスプハン王宮は現在もチルボンのスルタン(国王)一族の住居でもある」。
クスプハン王宮の建築様式はイスラム文化が基調だが、そのデザインをよく見るとヒンドゥー教をはじめ、中国やヨーロッパなど、さまざまな文化が入り交じっているからおもしろい。しかも、老朽化で補修を施している部分もあるが、建物そのものは数百年前に設立された当時のまま。映画のロケ地のように思えたのも、そのせいだろう。
入り口から足を踏み入れると、敷地内を仕切る赤色のレンガ作りのが目に入る。しかもバリ島ではお馴染みの寺院入り口にある「割れ門」があった。「これこそがチルボンで発展したマジャパヒト王国の文化であり、バリへも継承されていく」。こう自慢げに話すアグン氏は「割れ門の源流はここチルボンだ」と言いたげだった。
さらに壁面を見ると、最小さまざまな陶磁器が埋め込まれている。建物の美しさを堪能するだけでなく、この陶磁器からも海上交易で栄えたチルボン、そしてチルボン王朝の歴史と文化を感じ取ることができる。
「この皿は中国は明朝の第4代皇帝、洪熙帝が娘をチルボン王朝の第2代クラトンに嫁がせた時に贈ったものだ」
アグン氏はこう解説してくれたが、考えてみれば、破竹の勢いで勢力を拡大する明王朝からの調度品が、壁の飾り物に使われるというのは合点がいかない。しかし、この国の変遷を思えば、後世になって中国大陸との接点をこうした形で残したのかもしれず、そんな歴史の舞台裏に想像を張り巡らせるのも楽しい。(センディ・ラマ、写真も)