赤と黒の糸が紡ぐ生と死 マチャン美術館 塩田千春展「魂がふるえる」

 西ジャカルタ・クボンジュルックのヌサンタラ近現代美術館(MACAN=マチャン)で開催中の塩田千春展「魂がふるえる」が明日で閉幕する。5カ月間に渡ったこの大規模個展は、12日時点で来場者数約7万8000人。レバラン(断食明け大祭)休暇中にも多くの来場者が詰めかけ、2018年に開催された草間彌生展の来場者数10万人に迫る勢いとなっている。 

 ドイツ・ベルリンを拠点に世界の舞台で活躍する大阪府出身の塩田千春氏。2019年に森美術館(東京都・六本木)を皮切りに同個展は、韓国や台湾、中国、オーストラリアへも巡回した。日本では、森美術館の歴代来場者数において第2位を記録するなど大反響を呼んだ。また、塩田氏の個展はマチャン美術館にとって、新型コロナ禍後初となる大規模個展となった。
 会場を目の前にするや否や飛び込んでくる赤。しかし、真っ赤な空間へ身を委ねたい気持ちを抑え、1番に私たちをお出迎えしてくれた黄金色の作品《手の中に》を鑑賞する。子どもの両掌のなかで自身の心に内在する苦楽の思い、触れると今にも弾け飛んでしまう儚さが伝わってくる。また、この作品の中には鍵が隠れており、私には塩田氏の心のドアを開き、今から彼女の作品をのぞき見するのだという感覚に陥った。
 いざ、鍵を開き、塩田氏の代表的なシリーズである黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせた大規模なインスタレーションへ。黒は広大に広がる深い宇宙を、赤は人と人をつなぐ赤い糸や血液の色を表現している。
 このほか同個展では、塩田氏が5歳の頃に書いた作品や京都精華大学在学中に、人生で初めて糸を用いた作品も展示されている。また、生を象徴する卵を中心に、死を表す牛の顎骨を円状に囲んだ作品《私の死はまだ見たことがない》では、彼女はどこまでも生きることと死ぬことに強く共鳴し、生まれながらにして持つアイデンティティー、人が見落とす物事の機微をそっとすくうのだなと思った。この作品では、毎朝食肉処理場へ通い、180個もの牛の顎骨を集め、毎晩骨の肉を剥がす作業を約1カ月半続けたそうだ。
 「糸はもつれ、絡まり、切れ、解ける。それは、まるで人間関係を表すように、私の心をいつも映し出す」——。個展では、塩田氏の言葉が壁にいくつか散りばめられている。また私はこれに感嘆してしまうのだ。織りなされた作品以外にも紡がれた彼女の言葉から塩田氏の繊細さを垣間見ることができることに。(青山桃花、写真も)

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