レラワンの政治
今月に入り、インフォーマルな選挙キャンペーンが加速している。それはボランティア組織による選挙活動だ。ボランティアのことをインドネシアでは「レラワン」と言う。このレラワンの活動は、政党を中心とした公式の選挙スケジュールの外で展開されるので、インフォーマルな選挙キャンペーンと認識される。
レラワンというインフォーマル集団を、重要な政治勢力として利用してきたのがジョコウィ大統領だ。自らの政党を持たない彼は、様々な政治交渉の場面で与党連合の党首たちと厳しい駆け引きを強いられてきた。
その彼にとって、全国に展開する親ジョコウィのレラワン組織は、重要な武器となった。彼の一声で、レラワン組織は街頭結集し、ジョコウィ応援団の勢力の強さを政党幹部たちに見せつける。それを通じてジョコウィは政党ボスたちとの駆け引きを優位に進めようとしてきた。2014年の大統領選挙のときから今まで、その政治手法は変わらない。
こういう手法は、言わば政党アウトサイダーによるインフォーマル政治勢力の戦略的活用である。当然レラワンの幹部には大きな報酬が与えられる。大統領府の様々なポストや、国営企業の重役ポストなどがご褒美だ。
この新たな政治手法を確立したのがジョコウィであり、そして今、次期大統領選挙を見据えて、有力候補者の中部ジャワ州知事のガンジャルとジャカルタ特別州前知事のアニスが同じ手法を使ってキャンペーンに乗り出している。両者とも、ジョコウィと同じく政党アウトサイダーだ。
ガンジャルはジョコウィ同様、闘争民主党に所属するものの、幹部エリートでもなく党を動かす力もない。彼はジョコウィの手法を学び、今年1月にレラワン組織「ガンジャルの仲間たち」を立ち上げた。
もちろん表向きは「本人関知せず」だ。この「仲間たち」は全国に支部を展開するまで大きくなった。先月はジャカルタのカーフリーデーに数百人が集まり、フラッシュモブでガンジャル応援をアピールした。今月10日には「青年」と「女性」を前面に掲げる2つの別レラワン部隊も誕生した。
ガンジャルの目論見は、レラワンが各地で運動を盛り上げ、その圧に押されて闘争民主党が自分を大統領候補に指名することである。来年1月10日の同党の建党記念日に、その指名発表があることを期待しており、そこに照準を当てたレラワンの活動が全土で加速している。
アニスも、今月2日にレラワン組織「インドネシアニス」を立ち上げた。全国展開に向かって、これから活動が活発になる。地方支部を作ってメンバーを増やし、戸別訪問やSNSでアニス推しのキャンペーンを行っていく。所属政党のないアニスにとって、レラワンこそが自らの政治的実働部隊となる。もちろん公式の選挙日程から外れるインフォーマルなキャンペーンとなる。
このような政党アウトサイダーたちによるレラワン政治の主流化には、イノベーティブな面もあろう。既得権益で動く政党ボスたちを飛び越えて、人気リーダーと有権者が直接的につながることで、現状打破の原動力が生まれる可能性がある。一方、レラワン運動がビジネス・プロジェクトと化し、動員ブローカーが跋扈(ばっこ)して政党政治がさらに形骸化していく懸念も無視できない。レラワン政治の功罪を、注視していく必要があろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)