サンボ事件の政治的根因

 ここ2カ月間、メディアは毎日のようにサンボを伝えてきた。渦中の人、サンボ警察少将。部下で付き人のヨシュアを計画的に殺害した罪に問われている。なぜ彼は妻まで巻き込んで自宅で部下を射殺したのか。ワイドショー的な関心は、全国のお茶の間を飽きさせない。
 ただ問題の根因には、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権の露骨な警察への政治介入がある。その理解なしには問題の核心には迫れない。
 サンボ事件の驚きは、証拠隠滅と捜査妨害に百人近くの警官が関与していたことだ。組織内での彼の絶大な権力が伺える。その力の源は、メラプティ部隊長というポストだ。
 2年前に部隊長に抜擢されたサンボは、〝警察内ATM〟と呼ばれるほど金回りがよく、幹部に重宝されてきた。ATMのお世話になり、サンボに借りがある人は沢山いる。
 このメラプティ部隊というのは、警察長官直属の精鋭部隊だ。ジョコウィ政権で警察長官に任命されたティト(現内相)が2016年に作った部隊である。
 当時、ティトの警察長官への昇進は異例の人事だった。彼は、ジョコウィのジャカルタ州知事時代を同州警本部長として支え、信頼を得た。そのティトを長官に抜擢し、組織内で最有力視されていたグナワン副長官の昇進を退けた。
 この人事は、キャリアの年次的には〝5期飛ばし〟の荒業だった。ティトは士官学校87年卒、前任のハイティ長官は82年卒だ。この抜擢人事に不満なのが、グナワンを含む83〜86年卒の幹部たちで、ティトは彼らの妬みと非協力を予期しつつ、リーダーシップを発揮し成果を上げていく必要に迫られた。
 それで作ったのがメラプティ部隊である。ティト長官は、かつて対テロ特殊部隊(デンスス88)の隊長で、当時の右腕だったアジス副隊長をメラプティ部隊長に抜擢し、長官直属の部隊として全国の地元警察の頭越しに様々な刑事事件を捌いていった。とくに麻薬や賭博の大規模摘発をジャカルタから落下傘式に行うことで、ティトは世間の支持を得つつ、組織内で自分の力を浸透させていった。
 ジョコウィの大統領再選で、19年にティトは内務相に任命され、アジスが後任の警察長官となった。アジスはメラプティ部隊をサンボに任した。ただ、アジスはティトほど権力固めに貪欲でなかった。ジョコウィとの関係が薄いからだ。当然メラプティ部隊の士気も下がり、この頃からATMに傾倒していく。
 実際ジョコウィの頭には、旧友のシギットを警察長官にするシナリオがあった。シギットは、ジョコウィのソロ市長時代を地元の警察署長として支えた。大統領になってからも副官として間近で仕えた。
 そのシギットが21年に警察長官に任命された。この縁故人事に不服な幹部は当然多い。シギットも組織内の権力掌握に励まざるを得ず、メラプティ部隊の再活性を期待した。その矢先のサンボ事件である。
 そう考えると、大統領が露骨に政治的な警察長官人事をやってきたことで、組織にしわ寄せが生じ、それを解消するためにメラプティ部隊というアドホックな集団が作られ活用されてきた組織力学が見えてこよう。その政治体質を変えない限り、いつ第二第三のサンボが誕生しても不思議ではない。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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