「肉の仕分けは君の仕事だ」 イドゥル・アドハ 子どもたちも主役
「生まれた時から唇に障がいがあり、ずっと自信を持てなかったけれど、僕は今日、任された仕事があるんだ」。神に生贄を捧げるイスラム教のイドゥル・アドハ(犠牲祭)。中央ジャカルタ・タナアバンの一角にある小さなモスクで出会ったアミール君(15)は牛肉を手際よく仕分けしながら、こう話してくれた。
アミール君は唇が裂ける先天性の口唇裂があったが、家は貧しく医療に頼ることもできない。「それでも働けるから」と市場で働く両親の仕事を手伝ってきたが、「人とは違うという意識を持ち続けてきた」という。
そのアミール君はイドゥル・アドハの3日前、モスクのイマーム(導師)に呼ばれ、「今年は肉の仕分け役は君に命じる」と言い渡された。仕分け役はたった1人。大役だった。「今年は牛が8頭。そのすべてを僕が仕分けるのだから、がんばらなければ」。緊張気味ながら、その真剣な目はやる気に満ちていた。
イドゥル・アドハでは、と殺した牛や羊、ヤギを神に捧げ、解体した肉は貧しい人々に分け与える。流れをよく見ていると、「その瞬間」を待つ家畜に手を添えて祈るのも、路上に流れた血を水で洗い流すのも、子どもたちに与えられた〝仕事〟だった。
そしてと殺場の最前列に並ぶのも子どもたち。一部始終を自らの目で確かめ、ムスリムとしての死生観が根付き、大人への階段を上っていくのかもしれない。(長谷川周人、写真も)