夕日に染まる街、マカッサル 始まった資源バブル
東インドネシアへの玄関口といわれる南スラウェシ州の州都、マカッサル。海岸沿いのロサリ通りから見る日没風景は、息をのむような美しさがある。誰が決めるのか知らないが、「世界三大夕陽」と言われるのも納得できる。業務出張中は時間的な制約もあり、観光を楽しむ余裕はないが、それでもやっぱり逃したくない。海上保安庁の訓練取材で立ち寄る機会を得た6月、小一時間だが海岸通りを歩いてみた。
マカッサル訪問は4年ぶりだろうか。実は夕陽の美しさの事はすっかり忘れていた。ところが、ハサヌディン国際空港に降り立つと、ちょうど夕暮れ時でもあり、搭乗機が黄金色に輝いている。「見に行かねば」。その場で天気予報をスマホで確認しながら、翌日の取材予定を確認している自分がいた。
そして神は我を見放さなかった。翌日は昼過ぎから雷が鳴り響く豪雨。けれども午後4時過ぎには雲が切れ、マカッサルの町に日差しが差し込んできた。「このまま空が焼けてくれれば……」。そう祈りつつ海岸通りに出てみると、すでに散歩を楽しむ大勢の家族連れなどの姿があった。
「ようやく国内旅行に自由が戻ってきた。今回はマナド行きが目的だけど、夕陽を見ようと娘と一緒にマカッサルに立ち寄ったの」
西ジャワ州デポック市から来たというイルマさん親子も夕陽に魅せられた派。ポーズを取りながらあの角度、この角度と親子で自撮りを楽しんでいた。
立ち話をしながら、こちらの撮影準備も大急ぎで進める必要があるが、楽しい趣味の世界だから苦労にはならない。水辺もの撮影では定番アイテムの減光フィルターもなかったが、新たに建設された99ドームモスクを眺めながら、楽しい夕暮れの一時を過ごすことができた。
しかし、こうなったら街歩きもしたくなる。会議取材を途中で抜け出し、マカッサル中心部の商店街を歩いてみた。以前にも訪れたことがある通りだが、華僑・華人が経営する貴金属店が増えたように思えた。
「去年のテロ以降、治安がよくなった。武装した警官が街に立ち、これで安心して商売もできる」
原籍は福建省という貴金属店の経営者から、少しだけ話を聞けた。テロとは2021年3月に教会前で起きた自爆テロ事件。現地警察の調べでは、犯行は新婚6カ月の夫婦によるもので、当時、社会に衝撃を与えた。もっとも、貴金属店が盛況な理由は、治安の安定のほかにもう一つあるようだ。
「中国資本がどんどん入り込み、スラウェシでは資源バブルが始まっている。そのリソースが貴金属の世界にも流れ込んでいるのさ」。到着時の空港で中国系ビジネスマンを何人も見かけたが、美しきスラウェシも刻々と変化しているようだ。(マカッサル=長谷川周人、写真も)