モナスに笑顔が戻ってきた 「心の開放記念日」 6月16日

 「MONAS(独立記念塔)」。5文字でつづられるこの言葉にはインドネシア人の誇り、アイデンティティーが凝縮されている。それ故にコロナ禍で立ち入りすらできないこの2年、やるせない思いを背負ってきた。しかし、それが今月16日、前触れもなく開放され、ムルデカ広場に人々の笑顔が戻ってきた。この日は私的な心の開放記念日としたい。

 中央ジャカルタのイスタナ(大統領宮殿)前にそびえるモナスは、初代大統領であるスカルノ氏の発案で1961年8月17日に建設が始まった。落成は14年後の1975年7月12日。第2代大統領のスハルト氏の元でインドネシア独立のシンボルとして完成した国立公園だ。
 ジャカルタのランドマークともなるモナスは、最上部の展望台も一般公開されている。眼下に広がる首都の風景は圧巻で、国内外の観光客にとっても一度は訪れたい人気スポット。コロナ禍前は年間1000万人を超える集客数を誇った。
 業務上の必要もあり、モナスの再開日を知ろうと、広報担当者と頻繁に連絡を取り交わしていた。そしてついに16日、担当者から「今朝からゲートを開いた」と弾んだ声を聞くことができた。
 再開翌日の17日、北ジャカルタに住むニュルマンさん(41)の一家は、ひとつの揚げ物を4人で分ける朝食をモナス前で囲んでいた。「この2年で仕事を2度失った。それでも家族が一緒なら、食事はささやかでも至福の時。これからまたがんばりたい」。
 ペンキ工場で働くブカシ出身のサイフルさん(31)も、「モナスは観光地と違ってお金をかけず、家族がみんなで楽しめる場所」と再開を歓迎した。
 ただ、今回の制限緩和はモナスがそびえるムルデカ広場に限定され、記念塔の展望台の開放は先送りされており、早い再開を待ち望む声も上がっている。
 「ジャカルタ観光が1日も早く復活し、以前のように賑やかさを取り戻してほしい」。東ジャカルタから来た元銀行員のアニタさん(52)もその1人で、モナスの全面開放に期待を寄せる。
 これに対してモナスの広報担当者は、展望台開放の可否は「アニス・バスウェダン知事の専権事項。再開の時期はまだわからない。ただ、間違いなく言えるのは、コロナは過去の話ではないということ。私たち市民が保健プロトコルを守り、感染の再拡大は許さないことが大切なのではないか」と諭す。
 取材の帰り際、モナスを見上げると展望台に紅白の飾り付けが見えた。8月17日の独立記念日に向けた準備だろうか。でき得るならば、今年の独立記念日こそ広場いっぱいに広がる「メラプティ(紅白の国旗)」を見たい。(文・センディ・ラマ、写真・長谷川周人)

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