高まる首都移転への反対運動

 首都移転に対する反対運動が活発化している。きっかけは、先月18日の国会での首都移転法の可決だ。すぐさま、環境保護団体などが結集する市民連合は、「誰のための首都移転か」と題する調査報告書を発表し、同法を違憲だと司法審査に訴えた。
 今月5日には、著名な知識人45人の連名で「大統領、今は首都移転の時ではありません」と題する嘆願書を公開した。汚職撲滅委員会の元委員長ムコダス氏や、旭日重光章の受章者としても著名なアズラ氏やシャムスディン氏らが名を連ねる。嘆願書はすぐに拡散し、すでにネットで3万人以上が賛同している。
 彼らの懸念は多岐に及ぶ。まず首都移転法のスピード可決だ。20年のオムニバス法や19年の汚職撲滅委員会改正法と同じで、あっという間に可決された。7年が経っても可決されない性暴力撲滅法案や、個人情報保護法案とのギャップが著しい。
 今回の国会審議は1カ月ちょい。可決前日には270条ある膨大な法案を超特急で議論し、徹夜の突貫作業で朝の3時に審議終了とした。大事な検証も修正もないまま法案を可決した国会の出来レースに、強い怒りと不満が沸き起こり、反対運動につながった。
 また立法過程で義務化されている社会参画も皆無だった。首都移転先には広大な森林が広がるが、そこは空き地ではない。21の伝統的な慣習法コミュニティの居住地だ。彼らはもちろん今回の立法に参加していない。それで可決した法律の正当性は低い。反対運動は、政府が可決された首都移転法を盾として、先住民の土地を奪って彼らを強制立ち退きさせるシナリオを懸念する。実際、同法に慣習法の尊重や保護を保証する条項はない。
 また移転先の東カリマンタンの環境影響評価がザルな点にも批判が集中している。森林開拓と土地開発で、地下水が激減することのインパクト、とくに周辺地域での飲料水不足や大規模洪水が懸念されている。
 新首都は、「グリーンでクリーンな首都」を謳っているものの、電力供給を確保するための巨大な石炭採掘ビジネスが手ぐすねを引いている。環境保護団体は、クリーンどころか〝汚れた燃料〟を延命するための新首都計画だと批判する。ビジネスのそろばん勘定でなく、社会生態学的な視点から新首都開発のアセスメントをやるべきだ、というのが反対運動の主な主張だ。
 当然、予算も問題視されている。当初、新首都計画に対する総費用の20%しか国家予算は使わないと言っていたが、実際には53%まで膨らんだ。今後は、コロナ対策の一環で確保している経済回復プログラム予算さえ、首都移転に回す可能性を排除できない。いま優先すべきは首都移転ではなくコロナ対策だ、と反対運動は批判を強めている。
 これらの多くは合理的な批判といえよう。
 ただ気がかりなのは、一部の急進イスラム勢力も独自の首都移転批判を強めており、それは陰謀論に近く、異教徒がインドネシアを乗っ取るための移転だと訴える。こうなると懸念されるのが、〝危険な過激思想の撲滅〟を錦の御旗に、政府が批判勢力を意図的に一緒くたにして抑え込む政治展開だ。
 政府は、そういうトリッキーな手法ではなく、健全な批判に対しては真摯に向き合ってもらいたい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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