バタビア防衛の要衝へ オンラスト島
ジャカルタ沖に浮かぶ小島、オンラスト島を訪ねてみた。昨年4月、コタ・トゥアからスンダクラパ港にかけた一帯を再開発するというプロジェクトが動き出した。ただ、「バタビア時代の史跡を観光地化するなら、ジャカルタ湾に浮かぶ防衛拠点を忘れてはいけない」。そんな話をインドネシアの知人に聞かされ、ずっと気になっていた。
オンラスト島を目指すのは実は3回目だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で上陸許可が下りず、規制緩和が進んだ昨年12月、満を持して訪問となった。中央ジャカルタの拙宅からバイクで向かった先は、人工島のパンタイ・インダ・カプック(PIK)にほど近いカマール魚市場だ。
到着した時には午前8時を回り、露天商たちはすでに帰り支度を始めていた。島に行くには一仕事を終えた漁師と交渉し、漁船をチャーターする必要がある。ちょうどいいタイミングだった。
オンラスト島に行くガイド付きツアーもネットで見つけたが、コロナ禍で参加者が少ないのだろう。どこもツアー開催を見合わせており、漁船チャーターで正面突破するしかなかった。
魚市場を歩いていると、「ガイド」を自称する女性が声をかけてくる。「込み込み40万ルピア。オンラスト島だけではもったいないから3島をめぐる。島には好きなだけ滞在していい」。相場を知らないが、とりあえず値段交渉をすると25万ルピアに。女性の案内で古びた漁船に乗り込んだ。
出航後、船は北進することになるが、洋上からみるとジャカルタ湾にはおびただしい数の養殖場があるのがわかる。PIKを自転車で走る市民を左手に見ながら、船は約40分でオンラスト島に接岸した。
いわゆるプラウスリブの一角に位置するオンラスト島は、ジャカルタ特別州政府の管轄下にある自然公園として管理されているという。このため船から降りると州政府職員に出迎えられ、指示に従ってまず上陸登録を行い、そして入園料の5000ルピアを支払う。
島は徒歩で一周しても15分ほどと小さいが、自然豊かな小道には海風が抜け、気持ちよかった。ただ、期待した史跡はほとんど痕跡を残していない。島のほぼ中央に資料館があるが、展示物の保存状態がよくない。説明文も当方の読解能力の問題もあるが、文字がかすれてよくわからず、残念だった。
そこで船に戻って次の島へと向かおうとしたが、エンジンが焦げ臭い。船長は機関室に潜り込み、エンジンと格闘しているがらちが明かず、船は2時間近く漂流を始めた。
携帯電話の電波も途切れてさすがに焦りを感じたが、時間がないので残る2島の訪問を断念すると伝えると、なんと不調のはずのエンジンがうなりを上げた。しかも往路よりスピードを出し、あっという間に魚市場に戻ってきた。前述のガイドを見つけ、一部始終を説明して苦情を言うと、「今日は金曜日。礼拝の時間が迫っているから……」とぽつり。なるほど、である。
腹も立つが、オランダの大航海時代に思いをはせる冒険旅行はリベンジの価値あり。いずれガイドを頼んで再訪したい。(長谷川周人、写真も)