コロナ禍の〝ごろつき稼業〟

 約2年におよぶコロナ不況は、インフォーマル経済はもとより、アンダーグラウンドの経済にも大きな打撃となっている。それはインドネシアに限ったことではない。日本でも、春の花見や夏の花火大会などが各地で中止となり、テキ屋稼業の不振で「組」を閉める任侠の人たちが増えている。
 「コロナ廃業」の危機感は、インドネシアの無頼たちも共有する。その影響でいまジャカルタ近郊は、「アングラしのぎ(鎬)」のパイのぶんどり合戦が激化し、街頭で繰り広げる彼らの暴力抗争が「仁義なき戦い」と化して、一般市民の不安を高めている。
 その激戦地となっているのがカラワンやブカシ、タンゲランといった馴染みの場所だ。先月末にカラワン工業団地(KIIC)で起きた抗争では、1千人規模のごろつきが集結し、路上ファイトで死者も出た。
 抗争の原因は産業廃棄物処理利権で、とくに「B3廃棄物」と呼ばれる危険有害廃棄物の処理をめぐる対立だ。「環境ゴロ」で有名な「インドネシア下層市民運動」(GMBI)が、KIICで操業する企業に難癖をつけに参上し、地廻りの「インドネシア戦闘士運動」(GMPI)などと衝突した。
 このGMBIは、バンドン市(西ジャワ州)に拠点を置き、社会の底辺にいる落ちこぼれの弱者たちを救済する組織だと凄む。10月にはブカシのグリーンランド国際工業団地(GIIC)に出向き、「汚水処理が悪い、近隣住民が健康被害を受けている」と韓国系の自動車工場にデモ攻撃を仕掛け、結局仕事を取り付けている。
 このような産廃ビジネスは、ごろつき稼業の巨大なしのぎになっている。GMBIのボスであるファウザン氏は、汚水処分の請負会社まで設立して、産廃処理の末端部分の利権を牛耳ろうと必死だ。
 一方、タンゲラン市(バンテン州)では、パンチャシラ青年団(PP)とブタウィ同胞フォーラム(FBR)の衝突が頻発している。前者は、泣く子も黙る古参の全国組織で、後者は黒装束の民族系のごろつきだ。空き地の管理や駐車場警備の利権でバッティングしてきた。お互いの詰め所を襲撃し合うという抗争が11月だけで3回も起きている。お隣の南タンゲラン市でも、今年3月に両組織が土地の利権をめぐってぶつかり、襲撃事件に発展している。
 コロナ禍前であれば、この手のしのぎは、「今日はPP、明日はFBR」という具合に、話し合いで共存的にさばかれていたという。しかし、コロナ禍で不動産管理や駐車場警備のニーズも減り、少ないパイを上手く平和的に分け合うことが難しくなっている。
 さらには、コロナ失業やコロナ中退の増加で、組織の門を叩く青年も増えており、彼らの食いぶち探しに翻弄する両組織の地方幹部の苦悩も見え隠れする。
 このようなアンダーグラウンドの地殻変動は、ジャカルタ近郊に限らない。スラバヤ、メダン、マカッサルを含む多くの地方都市で、同じようにコロナ禍でごろつき稼業のしのぎが萎んでいる。
 それを考えると、今後、各地でぶんどり合戦が過激化し、仁義なき戦いの広域化も懸念される。早期の経済回復こそが、そのシナリオを防ぐカギであろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

メラプティ の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly