コロナ禍の闇金ブーム
昨今、社会問題への対応の鈍さが批判されるジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領だが、深刻化する闇金問題に関して、ようやく先月半ばに取り締まり強化の指示を発表した。ただ、問題は根深い。より強力な政治的推進力が求められている。
闇金問題は、無登録のオンライン貸金業のブームに端を発している。オンラインの消費者金融(pinjaman online)を略してピンジョル(pinjol)と呼ぶが、金融庁に登録されている合法なピンジョル業者は約100社。それ以外の業者が運営するネットサイトや専用アプリは5千を超える。すべて違法な闇金である。確認されている闇金業者だけで150社。摘発されても業者名を変えるだけで、イタチごっこになっている。
彼らのターゲットが、コロナ禍で事業や生活が苦しくなった市民だ。とくにインフォーマルセクターに従事する人たちに、銀行融資の審査はハードルが高い。低条件が売りのピンジョル、とりわけ無審査や即日OKを謳う闇金に引っかかってしまう。コロナ禍で100万人も増えた貧困層も、闇金のカモだ。
もちろん借りた後は法外な利息が待っている。トイチどころか、トゴが普通らしい。返済に困ると、別の業者を次々紹介され、借りて払うカタにはめられていく。同一闇金グループ内の業者が丸々儲かる仕組みだ。
取り立ても容赦ない。昨年、政府はコロナ禍で、銀行ローンの返済に取り立て屋を使うことを禁じた。その結果、借金取り業者は闇金からの受注に依存を強めている。そのビジネスは脅しと暴力が資本。マルク州出身のコワモテな取り立て集団が幅を利かすこの業界は、コロナ禍の成長産業だ。追い込まれての自殺やトラウマ被害が後を絶たない。
こういう状況を考えると、「取り締まり強化」の掛け声だけでは十分でないことが見えてこよう。まず、何よりもデジタルリテラシーの向上が必要だ。国民の7割がインターネットを使うが、デジタル空間の危険性についての認識は高くない。個々人が、合法なピンジョルと闇金の違いを見抜けないままだと、今後も被害者は減らない。
また、デジタル経済部門の規制枠組みもぜい弱である。フィンテックを規制する法律も、個人情報を保護する法律もない。闇金の宣伝は、直接SMSやワッツアップに来ることが多い。いとも簡単に携帯番号などの個人情報が業者に出回っている証拠だ。サイバー犯罪的に、ID窃盗に値する行為が野放しになっている。
国会は、個人情報保護法などの制定を後回しにしてきた。今年の優先審議法案は37件あるが、まだ2つしか法制化できていない。パプア州の特別自治に関する法と、税金に関する法の2つだけだ。どちらもビジネス利権に直結する。
そういう法案はすぐに法制化するが、市民を守るための法案はいつも後回しだという国会批判も強まっている。年末までに、残る35法案すべての法制化を期待するのは非現実的であろう。しかし、せめて大統領も意欲を示した闇金対策に必要不可欠な個人情報保護法案の審議くらいは、最優先で取り組んでほしい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)