無音の世界に心安らぐ レンブ山に登る 西ジャワ州
大自然の美しさ。これこそインドネシアが世界に誇る、魅力のひとつと思う。ところが、残念なことに情報不足のせいか、誰もが楽しめる環境がない。山に行って満天の星空を見上げたい。はやる気持ちはあっても、なかなか実現しない。そこで今回は山のベテランでもあるイスラム教の先生に先導をお願いし、西ジャワ州プルワカルタにあるレンブ山に登ってきた。
ジャカルタ特別州からなら車で約2時間半。レンブ山は標高792メートルだから、東京ならば高尾山を登るイメージだろうか。けれども、ハイキングの装備では厳しいレベルで、山歩きの経験がある人ならきっと楽しんでもらえる。そう考えて実行に移した。
山の中腹までは車で行けた。「レンブ山にようこそ」。この看板がある空き地は登山者たちが利用できる駐車場であり、登山ルートの入り口でもある。車を降りるとまずは装備の点検だ。私たち4人グループはトレッキングシューズに履き替え、水や食料は雨に備えてドライバックに入れた。
登山の前に入山許可を申請する必要があった。管理人のサイードさん(45)の説明によれば、この地域が栄えたのはパジャジャラン王国の時代。西ジャワ最後のヒンドゥー王国で、王家の墓があるルンブ山は神聖な巡礼路だった。しかし、近世になって麓のスカタニ村の村民が美しい景観地としてこの地の魅力を広め、首都にも近い手軽な登山ルートとして有名になったという。
さて、実際の登山が始まると竹林のアーチが続き、平坦な道を歩く事になる。というのもつかの間、すぐに岩をよじ登るハードなコースが始まった。しかもサイードさんは「強盗がいるから、貴重品に気をつけろ」という。
バリ島に行った人なら経験があると思うが、インドネシアの山中には野ザルが多い。観光地としても有名なウルワツ寺院ではサルが人の携帯電話やサングラスを奪い、これを〝人質〟に食べ物をせがむ。つまりサイードさんが言う「強盗」とは野ザルのことだった。
頂上のバトゥ・レンブが近づくにつれ、道は険しくなった。27歳の筆者も足腰が痛み、息が上がる。レンブ山を標高だけで初心者向きと考えるのは甘い。そう思った。
それでもこの日の野営地ともなったバトゥレンブからの眺めは壮観そのもの。正面に広がるジャティルフール貯水池の向こう側にはチララウィ山(標高512メートル)が見えた。そしてここでは無音。風の音に耳を澄ませば、体は自然界に溶け込み、心は安らぐ。
ただ、ひとつだけ残念なことがあった。楽しみにしていた日の出は雲に隠れたまま。美しいその情景を紙面でお伝えすることができなかった。でもまた登りに行こう。岩場にテントを張り、一夜を過ごして得られるこの充実感は、何事にも代えがたい。(センディ・ラマ、写真も)