マングローブを探して11時間 ブカシ県  辺境の地を行く

 防潮林としての役割を果たすマングローブだが、近年、開発の波にのまれてジャカルタ沿岸部では、立ち枯れが深刻化している。地球温暖化防止の決定打とも言われ、日系企業も再生・保全のため植樹に力を入れる。そんな現場を見たいと思いながら、コロナ禍もあって機会に恵まれず、5月に赴任した長田陸記者と2人、自力で行ってみることにした。

 ジャカルタ特別州内でマングローブと言えば、北ジャカルタのアンケカプック自然観光公園が有名だ。いずれ行ってみたいが、今回は行政に保護された、あるいは観光地化されたマングローブではなく、自然に近いマングローブの実態を見たかった。
 そこで向かったのは、西ジャワ州ブカシ県を流れるチタルム川の河口付近。十分な下調べをする余裕がなく、グーグルマップを頼りにハンドルを握った。土地勘のない場所でグーグルマップは、もはや欠かせない取材ツールとなっている。
 目的のエリアまでジャカルタ中心部から約50キロ。高速道路はほとんど使えず、画面にはジグザグの候補ルートが表示された。山間部なら仕方がないが、沿岸部を目指すのになぜ?  しかも所要時間は3時間近い。ここで丁寧に調べるべきだったが、頭の中はマングローブ林でいっぱい。飛び出してしまったのが、失敗の始まりだった。
 タンジュンプリオク港を横目で見ながら、ジャカルタから東進する。緊急活動制限下だが県境の検問もなく、1時間もかからず、全行程の半分近くを走った。「目的地まで3時間って何かの間違い?」とも思ったが、甘かった。
 グーグルが見つけ出したルートは最短距離ではあるが、どうやら道幅まで計算に入っていない。このため、行く先々で道が狭くて立ち往生。しかも湿地帯に架かる橋は竹製が多く、とても車の重さに耐えきれる構造ではない。Uターンとルート変更を繰り返した。
 悪戦苦闘しているうちに日は傾き始め、出発から4時間近くが経過していた。「取材は空振り?」。最悪のシナリオが頭をよぎる中、かすかな光が見えた。道を尋ねた地元の男性が、近場にあるマングローブ林を教えてくれたのだ。日没は30分後に迫っている。道はぬかるみ、ハンドルをとられるが、気分はダカール・ラリー。夕日に向かって猛進した。
 やがて視界が開け、小さな集落に出た。遠くに見えるマングローブに夕日がかかる。「これは絵になる」。車から飛び降り、シャッターを切った。が、肝心要のマングローブの生態状況を取材するという本来目的が達成できない。
 「日本人?」。足取りは重く、徒労感を感じていたところ、夕涼みをしていた地元の男性が声をかけてくれた。事情を話すと、「ならばあそこの駐車場に車を停めればいいよ。いい写真が撮れるよ」。なんと、マングローブの保全活動をしている民家を教えてくれた。
 移動距離は約50メートル。早速オーナーに目的を話すと、全面協力するという。「ただし、今日じゃない。あと1時間もすると満潮で道路は冠水。潮が引くまでジャカルタに帰れないよ。今は寸刻を争って戻るべきだ」。
 ブカシ県で辺境の地をさまようこと11時間。失敗も多かったが、人に助けられ、帳尻合わせができたようだ。「次こそは成功させよう」。拙宅に戻り、とっておきのジンで長田記者と祝杯をあげた。(長谷川周人、写真も)

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