ビーチに弾けるムスリマの笑顔 バンテン州アニェル海岸
レバラン(断食月明け大祭)休暇で帰省する人々に話を聞こうと、バンテン州のムラック港に向かった。ところが、スマトラ島行きフェリーは帰省禁止措置にかかって運休。思うような取材ができず、予定を変更して近くのビーチまで足を伸ばした。そこで待っていたのはムスリマたちの弾ける笑顔。ラマダン(断食月)明けの幸福感、あるいはコロナ禍で閉塞感が覆う日々の暮らしへの反動もあるのか、童心に戻るヒジャブ姿の横顔がなんとも微笑ましく思えた。
行動制限が続く中、ジャボデタベック(首都圏)を出るのは何かと神経を使うが、州境での現場対応は政府の指示と隔たりがある事もある。レバラン初日となったこの日も、州境の検問所で通行証明書の確認すらなく、少々拍子抜けした。
しかも前述の通り、フェリーは運休していて、港は封鎖されて中に入ることすらできない。そこで計画を変更し、向かった先はムラック港から30キロほど南下したアニェル海岸。スンダ海峡を見渡すリゾート地で、2018年12月、アナック・クラカタウ山の噴火による津波で多くの死傷者が出た地域でもある。
海岸に沿って車を走らせると、廃業に追い込まれた宿泊施設が少なくない。コロナ禍も加わり、地域経済が受けたダメージは大きそうだ。食堂経営者のラットナさん(34)は、「コロナ感染が始まって首都圏からの旅行者が減った。津波前に比べ、売り上げは30%にも満たない」と嘆く。
泊まったホテルも宿泊代が正規料金の約70%引きと投げ売り状態だった。ただ、駐車場を見渡すと確かに首都圏ナンバーは少ないが、地元の車がずらり並んでいる。はて? 直感的に面白い展開を予感した。
「くつろぐなら海よりプールがお勧め」。チェックイン時にフロントスタッフは、海は危ないという。「危ない」という意味が分からなかったが、首都圏はコロナ禍で多くのホテルがプール利用を休止中と思っていたので、まずはプール再開に驚いた。
荷物を部屋に放り込み、早速プールサイドに降りてみると、老いも若きも女も男も大はしゃぎ。特にオンライン授業で学校に行けず、退屈な毎日を過ごしているであろう、子どもたちの元気な笑顔が眩しかった。
海岸に出ると、ホテルは専有ビーチを一般に有料開放していた。このため利用者の多くは地元の人たちで、女性はヒジャブ姿が半数を超える。マリーンレジャーの取材は数えるほどで、ボディーボードや波遊びに夢中になるムスリマたちに初めて出会うことができた。
ところで、「海は危ない」という話だが、これは一目瞭然だった。海上はモーターボートが猛スピードで走り、砂浜は四輪バギーの爆音が響く。レジャーの中心が乗り物になっているから仕方がないが、砂浜に寝そべって缶ビールを片手に読書といった過ごし方はできない。地球環境にも厳しく残念だが、コロナ禍と苦闘するこの国の「今」を垣間見たようで、思いがけず有意義なレバラン休暇の取材になった。(長谷川周人、写真も)