春節の中華街を歩く 「金徳院」の新仏堂
華僑・華人にとって最も大切な祭日となるイムレック(春節、中国旧正月)。新型コロナの影響が直撃した今年は、彼らはどんな面持ちで新年(旧暦)を迎えるのだろうか。ジャカルタ最古の中国寺院、「金徳院」がリニューアルされたとも聞き、西ジャカルタ・グロドックにあるチャイナタウン、パンチョラン通りを訪れ、異文化の1年の始まりを過ごした。
「徐夕」とは中華圏の大晦日。古い年の悪い出来事を除き去り、新たなよい年を迎える。そんな思いから春節に向けて街が賑わう日とされ、その盛り上がりを見えようとまずは春節の1週間前、グロドックのチャイナタウンを訪ねてみた。
通りは福飾りなど春節グッズを売る露店が道路にはみ出さんばかりに軒を連ねている。財運などに通じる深紅と金色のコントラスト。「紅包」(ホンバオ=お年玉袋)や紅色のTシャツや子ども用チャイナ服などを売る店もあり、威勢の良い売り子のかけ声が響く。
ただ、買い物客は華僑系住民だが、販売員のほとんどはインドネシア人のようだ。10年近く、春節期間中に出店してきたインドラさん(40)は紅包を売りながら、「この国で中国人はマジョリティだから」という。人口で見れば少数派だが、華僑社会がこの国にもたらす経済的影響は軽視できない。
そして春節当日の12日。同じ場所を歩いてみたが人通りは少なく、あの栄えるような紅色を探すのは難しいほどだ。人気の中華料理店も祝日で休み。日ごろから野菜や魚を売る地元民はいるものの、お祭りムードはすっかり消えてしまったかのように見えた。
しかし、パサール(伝統市場)を抜けて「金徳院」の門をくぐると、〝初詣〟に訪れた華僑・華人たちがずらりと列をなしていた。参拝者が入場を待つのは、仮設されたばかりの真っ白な仏堂だ。金徳院の本堂は2015年の火事で焼失。以来、応急工事をして公開されていたが、現在は立ち入り禁止となり、黒焦げの柱と、奥にたたずむ焼け残った仏像だけが見える。
ここに勤めて7年以上になるアンさん(29)によると、「今年から本堂の建て直しが始まり、完成までの数年はこの新しい仏堂で参拝する」とのことだ。中に入ると、またあの紅色に包まれ、中国寺院に来たことを実感する。一番奥には、奇跡的に火災から難を逃れ、事務棟で保管されていた観音菩薩があった。
ただ、生まれも育ちもグロドックという参拝者の一人、パニさん(39)は少し寂しそうだ。「今日は春節だから家族と来たけれど、この仮設の仏堂はちょっと狭い」と慣れ親しんだ本堂を懐かしんでいた。
一年の始まりを過ごす、華僑系住民の生活や宗教に基づく習慣は、日本人にとっての正月と重なる部分が多くある。異文化といえど、どこか馴染みのあるこの日をインドネシアで過ごすのは貴重な体験だ。本堂の完成も今から楽しみだ。(三好由華、写真も)