詰め込まれたこだわり 古美術商の世界を歩く スラバヤ通り
骨董品店が隙間なく立ち並ぶ中央ジャカルタのスラバヤ通り。店の中には時代も国も越えた家具や照明、装飾品が所狭しと詰め込まれている。どこも似たように見えるが、実際に足を運ぶと店によってコレクションや雰囲気は異なり、店主によるそれぞれのこだわりがあった。
西洋のシャンデリアや照明が吊された店の入り口で、金属製の置物を洗っている男性がいた。アデさん(39)はここに15年勤めており、「ジャワで買い付けた」という古美術品を水とブラシで洗っていた。仕上げに小さいボウルに入った薬品に浸すと表面が輝き出す。コロナ禍で人通りの少ない中、「2人の子どもために」と熱心に磨きをかけ続けていた。
「大分麦焼酎」の空き瓶を売っているのが目に留まり、入ったお店には、古いボトルや食器が並べられていた。スマトラ島とカリマンタン島の間に位置するブリトゥン島で仕入れたという茶碗がいくつもあり、どれも表面はざらざらしていた。内側には石のようなものがへばりついていて、実用品なのかわからない。店主のフドゥさん(61)に聞くと、「海底の沈没船から引き揚げられた茶碗。サンゴがついていて貴重なんだ」という。値段は50万ルピアというが、すぐに「いくらなら買う?」と積極的に値段交渉を始めた。こういったコミュニケーションを楽しめるのも骨董品店ならではだろう。
一歩裏通りに入ってみると、そこにも骨董品店が連なっていた。猫が何匹も出入りする薄暗い家から、笑顔の男性が「入って入って」と誘ってくれた。猫屋敷のようだったが、ここにも中国製の食器などが並ぶ。店主のユディさん(62)がスラバヤで買い付けたという人型の木彫りの置物は、高さが2メートルほどある。「この種類の木彫りは珍しくないけど、こんなに背が高いのはあまりない」と自慢げに話した。
最近の客足について聞くと、「周りの事務所や会社が在宅ワークで閉まり、人通りが少なくなった。本当に寂しいよ」と肩を落とした。
この骨董品市場で思い出すのは、松任谷由実の隠れた名曲「スラバヤ通りの妹へ」だ。歌詞のように都市部では古い建築物が取り壊され、高層ビルに変わりつつある。その陰でずっと続いてきた地元住民たちの生活や仕事場が、近代化や疫病に負けずあり続けて欲しいと願う。(三好由華、写真も)