高原の涼風を求めて 日本に向く温かい目 レンバン
日本海側を中心に大雪に見舞われる師走の日本。南国生活にあってはやや遠く感じるが、不謹慎ながら羨ましくもある。そこで高原の爽やかな風に吹かれれば、季節感を失った脳みそもリフレッシュされる? 夜明け前の冷気で心身を引き締めようと、車移動の1泊旅行に出かけることにした。渓谷を見下ろす宿を民泊検索サイトで予約し、あとは敢えて目標は定めず、飛び出した。
行き先はバンドンの北に位置するレンバン。なぜレンバンかと言えば、オランダ時代からの天文台もあり、澄んだ空気が期待できそうだから。「渓谷を見下ろす」という宿のうたい文句も魅力的に聞こえた。五感の感じるまま、見知らぬ土地を歩く。今回もこれをコンセプトに据えたかった。
起点となる中央ジャカルタからは、高速で一気にバンドンまで走った。金曜日で州内は少々混雑しており、事故渋滞にも遭ったが、3時間ほどで目的地入りした。給油のため車から降りると、ひんやり乾いた風が肌を撫でる。「おお、これぞ求めていた高原の風」。旅気分は一気に盛り上がる。
まず宿を探したが見つからず、とりあえずはワクワク感を求めて、高原の道を進むことにした。茶畑を両脇に見ながら走ると、いわゆる温泉マークがちらほら目に入ってくる。温泉リゾートの広告だ。そして見つけた火山マーク。ネット検索するとこれがタンクバン・プラフ山で、直近では昨年7月に噴火している。
駐車場に車を止めると、土産物売りが集まってきた。どこの観光地も似たような光景があるが、その1人は商売を忘れ、ジャカルタ日本人学校(JJS)から来た生徒児童の話を始めた。
「きちんと列を組んで歩き、軍隊みたいと最初は思ったが、話してみると真面目で礼儀正しい。それでいて人なつこく、素直な笑顔がまぶしかった」。物売りはまた、ジャカルタにある国際校を名指しして「先生の話は聞かず、ごみは散らかし放題のあの生徒たちとは違う」と苦笑する。しつけや教育といった価値観から、根っこで通じ合うものがあるようだ。
さて、唯一の目標らしい目標といえば、天文台もあるレンバンで星空を眺めること。ところが、夕方からあいにくの小雨模様。翌朝に備えようと気持ちを切り替えた。
午前4時起床。地元っ子のおすすめに従い、市街区から「車で15分」というプトゥリ山を目指した。山頂からご来光を望む腹づもりだ。ただ、またしても小雨模様。収穫ゼロの諦めモードに入りかけたが、少し明るくなると若者たちが自然を楽しもうと野営をしているのに気付いた。
「コーヒーを淹れるけど、一緒にどう?」。気軽に声をかけくれる若者がいた。聞けば日本のキャンプ用品に憧れるのだそう。確かにインドネシアのアウトドア市場は歴史が浅く、グッヅは高価だ。しかし、ヤシ殻を燃やして湯を沸かしながら彼は言う。「道具だけじゃない。自然を楽しむ気持ちは僕たちだって負けないよ。たき火を囲んで同世代の日本人と話してみたいな」。
夜明け前のプトゥリ山は気温18度。ジャカルタから行くと「極寒」の域だが、火山で出会った土産物売りといい、「日本はトモダチ」と言い切るプトゥリ山の青年といい、インドネシアの人は日本を細かく観察している。新しい両国関係が問われる中、心温まり、また多くを考えさせられる小旅行になった。(長谷川周人、写真も)