楽しいドローンに落とし穴? 高まる中国依存に不安感
撮影機材にドローンを導入したところ、思いの外便利で、もはや欠かせない存在になりつつある。報道機関はこれまで、莫大な予算を投じて取材用のヘリや航空機を確保。羽田空港の一角には「新聞村」と言われた格納庫があり、各社の自社機が並んでいた。だが、ドローンがあれば空撮も手軽に実現するようになった。すさまじい勢いで進歩する技術革新に感謝しつつ、少々複雑な気持ちにもなってきた。
一般紙に在籍していたその昔、海上自衛隊の遠洋練習航海の同行取材をした事がある。自衛艦隊司令部(神奈川県横須賀市)から出港し、その年はパールハーバー海軍基地(米ハワイ州)が第1寄港地だった。
演習を繰り返しながらの2週間あまりの航海となるが、夜間飛行訓練で対潜哨戒ヘリの操縦桿を握る三等海佐の言葉が忘れられない。「車と違ってヘリは三次元空間の移動。訓練の積み重ねが大切です」。
以来、ゲームですらやったことがないのに、ドローンの操縦なんて無理。そう決め込んでいた。ところが、ジャカルタに来てある日本人に、「極端な話、目をつぶっていても元の場所に着陸してくれますよ」と背中を押された。
確かに、初回の設定はそれなりに必要だが、少し慣れれば欲も出てくる。見事に機体を制御してくれるアプリに助けられての話だが、この角度から、あの高さから、と操縦が楽しくて仕方がない。もっとも、日本に比べて制約の少ないインドネシアだが、ドローン規制は強化される方向にあり、注意が必要だ。
さて、多くの人が気軽に空撮を楽しめる時代になったが、ドローン市場の世界最大手は中国大陸の深圳市が拠点企業。消費者向け市場ではもはやライバルはいないといわれ、独走状態にある。
実は深圳は思い出深い。最初に訪れたのは77年1月。ロクマーチャウ(落馬洲)からボーダーを見下ろすと、足元にはまばゆいばかりのネオンが続く香港があり、深圳河の向こう側には暗闇の世界が延々と広がっていた。
その暗さたるや、中朝国境となる遼寧省の丹東市から鴨緑江越しに見る現在の北朝鮮より寂しく、もの悲しく見えたものだ。
ところが、80年に深圳が経済特区に指定されると状況は一変する。あの小さな漁村が人口1300万人都市に拡大。中心部には世界規模のハイテク企業が軒を連ね、域内総生産(GDP)はこの40年で1・3万倍となった。そして2018年、ついにあの香港をも抜いてしまった。
手軽に空撮を楽しめるドローンはありがたいが、暮らしの中で高まる中国依存。つい数年前まで、安かろう悪かろうの代名詞のように言われた「中華製」が今、世界制覇を虎視眈々と狙っており、不安にもなる。
「打落水狗(水に落ちた犬を打て)」。熾烈な階級闘争を繰り返す中国大陸では、成語をもじってこんな表現をする時代があった。何はともあれ、こんな目には遭いたくないものだ。(長谷川周人、写真も)