音と人の調和の世界 ジャワガムラン体験

 この連休中、久しぶりにインドネシアらしい文化を感じたいと、東ジャカルタのテーマパーク「タマンミニ・インドネシア・インダ」へ出かけた。お目当てはジョクジャカルタ特別州のパビリオン。ジョクジャカルタの王宮文化に根ざした開放的なステージがあり、ガムランのセットが置かれていた。ここはジャワガムラングループ「スルヨララス・ジュパン」が毎週、ガムラン演奏をする練習の場。なんとも贅沢な空間で演奏を体験させてもらった。

 グループを主宰する中野千恵子さんは、2002年に初めてインドネシアにやってきた。以来、ジャワガムランに魅了され、より多くの日本人にガムランのすばらしさを知ってもらおうと活動を続けている。
 この日の生徒さんは10人ほど。ンガティマン先生の元で各々楽器の前に座った。中野さんのお勧めで、筆者(記者)はサロン(分厚い鉄板を7音階並べた鍵盤楽器)に挑戦。渡されたガムラン特有の譜面は数字と休符だけのシンプルなものだった。
 最初は曲の始まるタイミングがわからず、叩く鍵盤やテンポも飲み込めず、正直焦った。ただ2回目以降は、段々と他の生徒さんの楽器の音や、指揮の役割を担うクンダン(手でたたく太鼓)の音が耳に入り、少しずつ調整できた。
 一曲演奏するたび、先生がひとりひとり、丁寧にアドバイスをする。すると少しずつ演奏の調和がとれ、3回目にはうっとりするような音楽に変わった。少し慣れたのか私自身、演奏しながらもリラックスしていた。風通しの良いジョクジャ様式のステージに響くガムランの調べ。通りがかりの家族連れも近くに腰を掛け、ゆったりとした音色を楽しんでいるようだった。
 その日は3曲を演奏し、あとは恒例の中野さんお手製のお弁当タイム。ガムランの話題で盛り上がりつつ、邦人コミュニティーとしての貴重な情報交換の場とも言える。
 グループ名のスルヨララスは「光の調べ」と言う意味。「ガムランで世界をハッピーに」というグループの基本理念と同じく、中野さんは幸せを光に見立て、その輪が広がっていくイメージから名付けたという。
 中野さん自身が好きな楽器を聞くと、今極めているのはグンデル。薄い鉄琴で、これを叩くと下側の筒から柔らかい反響音を奏でる。
 影絵芝居のワヤンと共演する際、芝居の総括リーダーとなるダランの声に合わせ、グンデルを演奏することがあるそうだ。そのためグンデルの演奏だけではなく、予めワヤンの手順やダランの動きを知っている必要があるという。
 ジャワガムランと一言で言っても、ワヤンや舞踊といった芸能、あるいは各地域の伝統楽器など、あらゆるインドネシア文化から切り離すことはできない。言い換えれば全て繋がっているということだろう。
 ンガティマン先生は、日本人がガムランを演奏することについて、「シンプルに嬉しいし、感謝している」と笑顔をみせてくれた。教えるコツについて尋ねると、生徒のことをしっかり認識すること。外国人なのか、ガムラン経験者なのかを見極め、それぞれに合った教え方をする。さらに、生徒に自信を持たせることが大事だという。
 演奏に夢中だったため、練習はあっという間に終わってしまい、物足りないほどだった。またあの穏やかな音や人々の調和に浸りに行きたくなる。

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