ぶらりチカラン、カラワン 製造拠点の〝裏道〟を行く
「チカラン」。そして「カラワン」。昨年4月には国内4校目となる日本人学校も設立され、日系企業の製造拠点として欠くことができない存在に成長した。しかしながら、1月に赴任した筆者は新型コロナウイルスの問題もあり、ゆっくり見る機会を失していた。そこでこの7月にぶらり訪れ、通常の取材業務などでは行かない、工場群の〝裏道〟を歩いてみた。
最初に体感してみたかったのは、チカンペック高速道路の高架部分(第2チカンペック高速道)の歪みだ。渋滞解消の救世主として2019年12月、満を持して開通したが、路面コンディションの悪さは尋常ではないと聞いていた。
実際に走ってみると、路面の凸凹は予想を上回るレベル。東日本大震災直後の常磐自動車道を思い起こした。そしてそれ以上に異様さを感じたのは、これもよく聞く「波打つ道路」だ。揺れる車内から写真を撮ってみると、道路が抜け落ちてしまわないかと、不安になるほどゆがんで見える。
とはいえ、西ジャワ州のブカシ市内に入ると、新しく開発された地区だけに景観も含めて極めて快適な道が続く。最初に立ち寄ったカラワン工業団地(KIIC)に隣接するゴルフ場は、開放感のある設計で実に気持ちがいい。
翌朝はホテルで借りたマウンテンバイクに乗り、カンプン(集落)を走ってみた。正直な第一印象は予想以上に低所得者層が多いこと。多くは外資系企業の労働者やその家族と思われるが、生活水準は決して高くはない。新型コロナ問題への関心も決して高いとはいえず、いずれきっちり取材すべきと今後の宿題とした。
カンプンを抜けていくと、今度は牧歌的な田園風景が広がっていた。決して広くはないが、工場の隙間を縫うように田んぼがあり、農民たちが畑仕事に精を出している。グレートーンの工場街とは一線を画し、目に染み入るような緑にホッとする。
牛の群れにも遭遇した。肉牛か乳牛と思いきや、そうではない。近くにいた牛飼いたちに聞くと、子どもたちの生態観察に使うため、地元行政が用意したものだという。工業団地の発展のためには、近代的な教育環境の整備に向けた資本投資がもっとあってもいいと思ったが、いずれまた調べてみたい。
ホテルに戻る途中、小さな森があり、バイクに乗った家族連れなどが次々と吸い込まれていく。興味を持って後を追いかけると、小さな沼地があり、太公望たちが釣り糸を垂れている。
そのうちのひとりに話しを聞くと、「趣味の時間? 違うよ。今晩のおかずを釣りに来たのさ」。日系自動車メーカーに勤めているというが、生産調整で自宅待機中。収入が激減して、食事代を釣りで補っているという。
どんな仕事でも現場を歩くことは次の展開を見極める第一歩だと思う。
とかく目的ありきの取材になりがちだが、今回はその原則を改めて知る機会になった。(長谷川周人、写真も)