加熱する自転車ブーム 在庫払底 販売制限も
自転車ブームが加熱している。新型コロナウイルス感染拡大を受け、長く自宅にこもった反動に加え、経済成長の中で変質する豊かさの新基準がブームを後押ししているようだ。足元では人気輸入車が5000万ルピアを超える高値がつく異常事態に。再開されたカーフリーデーで自転車の波に乗り、インドネシアの新しい自転車市場を考えてみた。
「ブームのシンボルはこのカーフリーデー。みてごらん。自転車だけじゃない。歌う人も、踊る人もいる。家族連れは太陽の下で子供とのひとときを過ごす。みんなが外に飛び出す楽しさを知った。衣食住という豊かさ測るものさしが変わりつつあり、コロナ問題がその推進力になっている」
中央ジャカルタのタムリン~スディルマン通りで再開した6月21日のカーフリーデー。満を持してタンゲランから自慢のロードバイクでやってきたというリズキーさん(34)はこう話す。
周囲を見渡せば、確かにみなそれぞれの楽しみ方があるようだ。少々危ないと思うが、スマホを片手にインスタグラム用なのか、写真や動画の撮影に忙しい人も多い。
ただ、やはり驚くのはスポーツバイクが増えたこと。レーシングパンツをはいた本格派も少なくない。そして際立つのは折りたたみ式の小径車の多さ。中央ジャカルタから来たベルナンドさん(52)によれば、断トツの人気は英国製のフォールディングバイク、ブロンプトンだそうだ。
「どこのショップも、売り切れで再入荷の見通しは立たない。仮に在庫があってもプレミアム価格がつき、ベースモデルが5600万ルピア。これが相場と思う。中古車でも純正のオプション部品を満載した上級車なら、1億ルピアに迫るブロンプトンも珍しくない」
かく言うベルナンドさんの愛車もブロンプトン。1年前に手に入れたが、「妻にも話してないから、値段は公開できない」と笑った。
国内価格の暴騰で、海外で調達する人も急増している。やはり自転車乗りで米国在住の知人に聞いてみた。
「近くのバイクショップの話では、30台入荷したものの開店から2時間で完売。英国からの通達で1人1台、年間5台までという厳しい販売制限まで出ている。中国人に続き、今度はインドネシア人の〝爆買い〟が話題だよ」
投機的な買い占めという見方もあるようだが、急成長するインドネシアの自転車市場をマクロな視点でみれば、つまるところ裾野を広げているのだろう。自転車専門店が集まる南ジャカルタで店員に聞くと、「輸入車だけでなく、似て非な国産車も飛ぶように売れる。今後はアンカー、パナレーサー、フジなど日本の自転車もやってみたい…」。
実のところ、コロナ問題で中国からの部品調達が滞り、生産が間に合わないそう。と考えてくると、部品も含めて日本メーカーにとっても、インドネシアには〝コロナ特需〟が生んだ商機があるのかもしれない。(長谷川周人、写真も)